Shine Episode Ⅰ


庁舎に戻り席に着いても、神崎は話しかけるのが躊躇われるほど不機嫌な顔をしていた。

水穂は押し黙った神崎と一緒にいるのが息苦しくなり部屋を出た。

自動販売機前でコーヒーの紙コップ片手に、しばらくそこですごすことにした。

自分は神崎のことをどれだけ知っているだろうかと、自販機横の壁に背中を預けながら思いをめぐらせる。

以前、少しだけ話してくれたれたテロに巻き込まれた人のこと、その後の神崎の任務先、今日出会った女性や警察庁長官との関係、それくらいである。

それらと水穂に対する彼の態度が、どうしても結びつかなない。

カップの中のコーヒーはいつしか冷えていた。



「香坂さん」



場違いなほど爽やかな声に呼びかけられ、はじかれたように顔を上げると、そこには栗山悟朗が立っていた。

水穂が新人の頃、研修先の科学捜査研究所で新人担当として接してくれたのが栗山だった。



「今日はこちらですか?」


「うん、会議でね。香坂さん、神崎さんと仕事してるんだって? 驚いたなぁ、あの神崎さんとねぇ」


「栗山さん、神崎さんをご存知ですか? なんだか、みんなに驚かれるんですよ。

まぁ、あんな人ですから、私の方が合わせて何とかやってます」


「ははっ、君らしいね。このあと食事でも一緒にどうかな。もう終わりだろう?」


「わぁ、行きます、行きます」



嬉しそうに答える水穂の声のあとに、和やかな雰囲気を乱す低い声が聞こえてきた。



「楽しそうなところを悪いが、デートは中止だ。水穂、これから出かけるぞ」



肩を大きく落とした水穂は、見なくてもわかる顔を確認するように振り返った。

手にもった書類をひらひらとさせながら、神崎はなぜか嬉しそうに立っていた。



「神崎さん、お久しぶりです」


「よぉ、栗山じゃないか。悪いが彼女を借りるぞ」


「彼女なんかじゃありません。神崎さん、変な事言わないでください。栗山さんに迷惑です。

栗山さん、ごめんなさい。そういうわけなので、また誘ってください」



「待ってくださいよ」 と言いながら水穂が神崎を追いかけるのを、栗山は複雑な思いで見ていた。

追いついた水穂が、神崎に何かを言いながら二人で掛け合いをしている。

栗山が知っている神崎は、人を寄せ付けない雰囲気をまとった男だった。

特にテロ事件後、鬼気迫る形相の神崎を何度となく目にした。



「彼女が神崎さんとねぇ……」



栗山の口から独り言がもれた。

時が解決したのか、それとも、彼女の存在が何かを変えたのか。

「水穂」 と、彼女を気安く呼ぶ神崎を、栗山はある感情を抱きながら見送った。

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