Shine Episode Ⅰ


「ソニアさんをちゃんとホテルまで送り届けてください。煙草はだめですからね」



今夜最後の注意事項を籐矢に告げる、水穂の声は明るかった。

その声に、片手を上げて籐矢が 「おう」 と応える。

「ありがとう。おやすみなさい」 とソニアが手を振り、優雅にタクシーに乗り込んだ。

ソニアを守るようにタクシーに乗せる籐矢を見ながら、どうかすると粗野な振る舞いの多い籐矢が、本当は優しい男だと見せ付けられたようで、少しだけソニアに嫉妬した水穂だった。





「ねぇ、トーヤ」


「うん?」


「彼女のこと、大事にしなさいよ。アナタわかってるんでしょう? 

自分にとって、彼女がどんな存在かってこと」


「フッ……言われなくてもわかってるよ。可愛い部下だってことぐらいな」


「ほら、そうやって誤魔化しちゃダメ。部下は余計よ。

水穂が可愛くて仕方ないくせに、ホントへそ曲がりなんだから」


「あはは……ソニアにはかなわないな」


「あはは……じゃないわよ。女ってのはね、時には強引に迫って欲しいものなの。

ゆったり構えてると他の男にさらわれるわよ。それでもいいの?」


「無理を言うな。アイツには付き合ってるヤツがいる、それをどうしろって……」


「そんなの、トーヤへの当てつけに決まってるでしょう。女心もわからないの?  

もぉーじれったいわね。アナタがハッキリしないから」


「俺は今のままでいい。それに……俺にはやらなきゃならないことがある」


「そうだった……だけど、そんなこと言ってたら、いつになるか」


「そのときは、そのときさ。二つ一緒には無理だ、俺は不器用なんだよ」



これ以上言っても無駄だと思ったのか、それきりソニアは口をつぐんだ。

仕事と女、どちらも大事なら、ひとつずつ決着をつけなければいけないのか……

不器用なんじゃない、トーヤは真剣なんだと、かつて愛した男がより成長したのが眩しくて、ソニアは陽気に鼻歌を歌いだした。

この男は、どんな言葉でいとしい女に愛を告げるのか、考えるだけで愉快になるわと、その夜のソニアは上機嫌だった。


< 39 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop