Shine Episode Ⅰ
「ソニアさんをちゃんとホテルまで送り届けてください。煙草はだめですからね」
今夜最後の注意事項を籐矢に告げる、水穂の声は明るかった。
その声に、片手を上げて籐矢が 「おう」 と応える。
「ありがとう。おやすみなさい」 とソニアが手を振り、優雅にタクシーに乗り込んだ。
ソニアを守るようにタクシーに乗せる籐矢を見ながら、どうかすると粗野な振る舞いの多い籐矢が、本当は優しい男だと見せ付けられたようで、少しだけソニアに嫉妬した水穂だった。
「ねぇ、トーヤ」
「うん?」
「彼女のこと、大事にしなさいよ。アナタわかってるんでしょう?
自分にとって、彼女がどんな存在かってこと」
「フッ……言われなくてもわかってるよ。可愛い部下だってことぐらいな」
「ほら、そうやって誤魔化しちゃダメ。部下は余計よ。
水穂が可愛くて仕方ないくせに、ホントへそ曲がりなんだから」
「あはは……ソニアにはかなわないな」
「あはは……じゃないわよ。女ってのはね、時には強引に迫って欲しいものなの。
ゆったり構えてると他の男にさらわれるわよ。それでもいいの?」
「無理を言うな。アイツには付き合ってるヤツがいる、それをどうしろって……」
「そんなの、トーヤへの当てつけに決まってるでしょう。女心もわからないの?
もぉーじれったいわね。アナタがハッキリしないから」
「俺は今のままでいい。それに……俺にはやらなきゃならないことがある」
「そうだった……だけど、そんなこと言ってたら、いつになるか」
「そのときは、そのときさ。二つ一緒には無理だ、俺は不器用なんだよ」
これ以上言っても無駄だと思ったのか、それきりソニアは口をつぐんだ。
仕事と女、どちらも大事なら、ひとつずつ決着をつけなければいけないのか……
不器用なんじゃない、トーヤは真剣なんだと、かつて愛した男がより成長したのが眩しくて、ソニアは陽気に鼻歌を歌いだした。
この男は、どんな言葉でいとしい女に愛を告げるのか、考えるだけで愉快になるわと、その夜のソニアは上機嫌だった。