Shine Episode Ⅰ
二人が佇む路地が見える一角に、一台の車が止まっていた。
夜の帳を味方にして闇に沈む車体は、二人の視界からその存在を隠している。
「男の顔はわかったか」
「はい、警視庁の神崎です」
「なに?」
「神崎が大学に聞き込みに行ったそうです。油断できませんね。
小松崎センセイに、もう少し圧力をかけますか」
「ふっ、圧力とは言葉が悪いな。気分良く協力してもらうんだよ。
小松崎センセイには、充分に鼻薬を嗅がせておけ」
「わかりました」
「そいつを貸せ」
男は部下から赤外線スコープを取り上げ自ら覗いた。
不敵な笑みがこぼれる。
「香坂の娘だから迂闊に手出し出来ないと思っていたが、面白いことになってきたじゃないか。
へぇ、あの神崎が香坂の娘の恋人とはねぇ。恋人が危険な目にあったら、あの男はどうするかな? フッフフ……」
「ここで一発鳴らしますか」
「いや、脅しはもういい。この前の破裂音で向こうも警戒している。
香坂の娘に神崎が張り付いているということは、おそらく俺たちの情報をつかんているんだろう。
いいか、今後は極力接触は控えろ。油断すると足をすくわれる」
「女の監視を続けますか」
「それも、もういい。計画を変更する、神崎にターゲットを絞れ。女の使い道は最後の手段に取っておく」
「はい」
二つの影は、身を潜めるように車の中で息をしながら籐矢と水穂を見つめていた。
「おやすみなさい」
「おやすみ。明日は休むんじゃないぞ」
「わかってます……気をつけて帰ってくださいね」
水穂に軽く手を挙げて、籐矢は大通りへ向かって歩き出した。
路地奥に止まっている車を不審に思いながら、気づかぬ振りで足を進め、車のナンバーを素早く暗記した。
大通りに出てから立ち止まり、携帯を取り出して東郷室長を呼び出し今しがた見かけた車の様子とナンバーを伝えた。
すぐに調べて折り返し連絡すると言われたが、車のナンバーから奴らの正体にたどり着くことはないだろうと、籐矢も東郷室長も思っている。
国内の捜査に限界があることは感じていた。
そう遠くないうちに日本を離れるつもりだと伝えたら、アイツはどんな顔をするだろう……
籐矢が見上げた都会の夜空には、赤い月が浮かんでいた。
・・・ EpisodeⅠ 完 ・・・
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『Shine』をお読みくださいまして、ありがとうございました。
物語は次のシリーズへ続きます。
『Shine』Episode Ⅱも、どうぞお付き合いください。
次のページから、番外編を一話お届けします。
こちらにもお付き合いください。
K・撫子