あなたの幸せ、買い取ります [短編]
 幸せか、なんだろう。

「私にとっての幸せは、何気無い日常を過ごすことです。朝起きて、ご飯を食べて、学校に行って、友達と話して、帰ってきて、ご飯を食べて、お風呂に入って、寝る。この中でも最も楽しいのは友達と何かすることですね。」
 
そう言うと、零さんは笑みを浮かべた後に悲しげな表情になった。
 
「貴方は幸せとは何かを知っています。なぜ、売るのですか。」
 
どうして幸せを買うのにそんなことを聞くのか私には分からなかった。
  
「お金が欲しいからです。」
 
零さんは困った顔をした。また私は分からなくなった。
 
 「そのお金は何に使うのですか。」
 
 「友人と夏休みに遊ぶために使います。」

 「それは幸せを売るに値する理由ですか。」
 
そう聞かれて私は怒りを感じた。友人をばかにされた気になったのである。
まるで友人と遊ぶためにお金を使うことが阿呆らしいみたいに。

「それはどう言う意味ですか。友人と遊ぶためというのは馬鹿らしいと、そういうことですか。」

「違います。そういうことを言っているのではありません。あなたは幸せを売るということがどういうことかわかっていないようです。」
 
私はこれを聞いて羞恥を感じた。
意味を早とちりして誤解して小さな子供みたいに反論したことに。
零さんは私を諭してくれているにも関わらず私は……そう思うと同時にさらに零さんが一体どうしたいのかが分からなくなった。
まるで零さんは私に幸せを売ってほしくないようだ。幸せを買うのは零さんだというのに。
 
「零さんは私が幸せを売って欲しくないのですか。」
 
「そう感じるのならそうなのかもしれません。」
 
ますます零さんがどうしたいのかが分からなくなった。
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