あなたの幸せ、買い取ります [短編]
「幸せを売るとはどういうことか分かりますか。」
 
確かに、幸せを売るってどうするのだろうか。考えてもみなかった。
 
「幸せな記憶を売るってことでしょうか。」
 
零さんは小さく溜息をついた。本当に小さく。しかし日頃からご機嫌取りをしている私には見えていた。幻滅されただろうか。
 
「あなたは幸せとは何かということを知っている割には軽視しすぎです。そして幸せを売るということを勘違いしているようです。
幸せを売るというのは未来を売るということです。幸せな未来を、です。
幸せを買いたい人は何が欲しいのかといえば幸せな未来が欲しいのです。あなたはそれをわかっていないようです。」
 
よく考えれば、いやよく考えなくてもわかることだ。幸せが欲しいと言うのは記憶が欲しいのではなくて幸せな未来が欲しいのだ。
そこらへんを私は考えていなかった。
 
「幸せを売るということがどんなに残酷で罪深いことかをあなたは知りません。一つ、能のない馬鹿な女の話をしましょうか。」
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