あなたの幸せ、買い取ります [短編]
 あるところに一人の女がいました。その女は恋人がいて、先日プロポーズされました。女はたいそう喜びました。

しかし彼女の恋人の親は多くの借金を抱えていました。それをどうにかしたいと思い、女は幸せを売りました。すると借金は全て払い終えることができて何もかもがうまくいくと思われました。

しかし彼女は幸せを売るということをわかっていませんでした。結婚式の前日、彼女の恋人は病気で亡くなりました。恋人は彼女の病気のことを隠していました。近くに手術の予定がありました。完全に治ると言われていました。

そこで女は気付きました。あのとき自分が幸せを売ったから彼が死んだのではないかと。彼が死んだのは自分のせいだ、自分が殺したのだと。

女は自殺しようとしました。幸せを売るというのは同時に不幸を買うということです。その時の彼女にとっての幸せは彼を殺したのだという罪悪感からの解放、即ち死を意味していました。

つまり、彼女は死ねませんでした。幸せを売ったから。女は幸せの仲介人を始めることにしました。せめてもの彼への罪滅ぼしとして。そんな能のない馬鹿な女の右手には明日のために右手の薬指には付け替えた婚約指輪が今もはめられています。
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