難病が教えてくれたこと
美那ちゃんは風雅の部屋に向かって上がって行った。
仕方なく俺は李那のお母さんのいるリビングに向かう。
後ろからは母さんが声をかけてくる。
「如月さん、一応今は落ち着いているけど…」
「…」
「いつまたパニックになるか分からない。」
そりゃあ大切に育ててる娘だ。
もし死んだら…
李那が死んでしまったらあの母はどうなってしまうんだろう。
俺も…
耐えられないかもしれない、
だから今は李那の治療が無事終わることを祈るしかない。
「李那のお母さん。」
「…裕くん…ありがとう…」
「美那ちゃんの明るさに俺も元気になりそうです。」
微笑んで落ち着かせる。
「美那のおかげで正気取り戻したわ…
だけど、奈那みたいに逝ってしまったら…
そう考えると震えが止まらなくて…」
奈那さんも同じような状態で逝ってしまった。
だけど奈那さんは最期、笑っていた。
穏やかな顔で亡くなった。
呼吸困難で苦しいはずなのに。
「今は、信じましょうよ。
母親が信じなくて、家族が信じなくて誰が信じるんですか?
赤の他人の俺でも信じてるんですよ。
明るくて優しくて強い李那を。」
…我ながらよく喋る。
そうでもしないと泣きそうだ。
「そうね…信じるわ…」
また泣きそうな顔をしながら李那のお母さんは立ち上がった。
「中矢さん。迷惑かけました。お邪魔しました。」
帰ろうとする李那のお母さん。
それを引き止める我が母。
「待ってくださいよ。
折角ですから、ご飯食べに行きましょう。」
「…主人もいますし…」
「今から作っても遅いです。
ウチでご馳走作りますから。
今日は呑みましょう。」
酒を片手に母さんはにっこり笑う。
今の状態で帰すのは心配なんだろう。
大事な子どもを失いかけているのだから。
「…分かりました。
主人に連絡しておきますね。」
李那のお母さんはポケットから携帯を取り出すと李那のお父さんに連絡した。
LINEか何かを打っているのだろうか。
手が震えているのが分かる。
「母さん、俺部屋にいるわ。」
「分かった。」
あとはお母さん同士に任せる。
子どもの俺が口を挟むことはもうない。
ウチに引き止めておいて楽しい時間を過ごさせる。
大人しく部屋に向かう俺。
「…泣くなよ。」
「だって…」
隣の部屋のドアから話し声が聞こえる。
風雅と美那ちゃんだ。
泣いているのか。
風雅が一生懸命優しい言葉を掛けているのが分かる。
自分の部屋に入り、ベットに腰掛ける。
壁に凭れると話し声がくぐもって聞こえる。
「お姉ちゃんが死ぬかもしれない…っ」
「李那さんなら大丈夫だよ!
妹だろ?!信じろよ!」
…やっぱり俺の弟だな。
同じこと言うわ。
「兄貴だって心配なはずだ!なのに落ち着いてる!
なんでか分かるか!?
李那さんを信じてるからだよ!」
…たまにはいいこと言うじゃねえか、風雅。
「…」
…あ、蒼空達に連絡どうしよう。
どんな反応するんだろう。
…蒼空にしよう。
『李那が自殺しようとして4階から飛び降りた。
今治療中だが、どうなるかは分からない。』
…俺だけでも冷静でいないと。
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