難病が教えてくれたこと
あえて何も言わないのは私に対しての禁句があることを分かっているから。
“お姉ちゃん”
この単語だけは私の前で言ってはいけない。
だって泣いてしまうから。
「…李那、泣けよ。」
「泣かないよ。」
「…あのなあ…」
裕くんは困った顔で私を見る。
…横断歩道に差し掛かった。
…トラックが走ってきてる。
あと数歩横断歩道に出たら撥ねられて死ぬ事が出来る。
「李那?!」
ーグイッ…
あっ…
無意識のうちに体が動いてた…?
「何やってんだ李那!」
「…」
「死ぬ気か?!」
「…うん。」
裕くんの驚いた顔が目の前にある。
…裕くんになら教えてあげてもいいかなあ…
「…裕くん、教えてあげようか。」
「…何を?」
「真実を。」
お姉ちゃんが死んだ、その事実を。

「お姉ちゃんはね…」
「うん。」
「事故で死んだってことになってるの、知ってるよね?」
私は人気のあまりない公園に来ていた。
「うん、奈那さんは事故だろ?」
「…違うの。」
「え?」
「お姉ちゃんが死んだ理由は…
私と同じALSだからなの。」
…お姉ちゃんと私は家族性のALSだ。
美那にだけ、奇跡的にALSにならなくてすんでいる。
「…奈那さんも…ALS」
「お姉ちゃんも病気で死んだの。
でもね、病気そのまま死んだんじゃなくて、自殺したの。」
…あの優しくて明るかったお姉ちゃん。
私や家族に心配かけたくなくてずっと笑ってた。
お姉ちゃんの日記。
全てが綴られていた。
「お姉ちゃんは…ALSになってから変わった。」
「…どんなふうに?」
「……元々明るかった。
感情表現も。いつでも表情がくるくる変わって、喜怒哀楽がはっきりしてた。」
お姉ちゃんのことが大好きだった。
なんでも出来て、優しいお姉ちゃんが。
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