君と一緒に恋をしよう
#22『出店会議』
今日の生徒会室は、活気に満ちていた。それぞれのクラスの出し物を勝ち取りたいグループと、体育館での出演時間と内容許可を得るための、文化部系グループが熱い。
最初は、3年生のクラス出し物からだ。バルーンアートなどの作品展示から、体育館、武道場での劇の上演まで、希望は様々だ。
各学年8クラス、3年の出し物が決まっていく。喫茶店もあった。喫茶店は、各学年2クラスまでの開催と決まっている。
「では、2年生の希望に入ります」
3年の代表者が部屋を出て行く。交代で2年の代表が席についた。ここからが私たちの本番だ。
各クラスの希望が発表されると、室内がざわついた。
喫茶店の第一希望が4クラスもある。逆に、第一希望にお祭り屋台を入れてきたクラスもあった。
出店制限のない屋台第一希望のクラスが、先に確定した。それで決まった2クラスが退席していく。残る2クラスは教室での演劇と作品展、そこもすぐに確定した。
「茶店、辞退するか」
「うん」
市ノ瀬くんの言葉に、私と北見くんが同意する。
「それでは、3組は第二希望のプラネタリウムになりますけど、その出展意図をお聞かせください」
北見くんが立ち上がった。彼の熱いメッセージに、私と市ノ瀬くんはうなずく。
「熱意は伝わりました。ですが、どのような管理態勢でプラネタリウムをするつもりですか?」
立木先輩が、資料のページをめくる。
「プラネタリウムというと、暗闇が前提ですよね、教室に満天の星空とおっしゃいましたが、何か高額な機材を用意するのですか? お化け屋敷で、以前セクハラ疑惑のクレームが発生して以来、教室内を暗い閉鎖空間にするには、お化け屋敷同様の規制が適応されますけど、その辺りの対応はどうなっているのでしょうか」
北見くんが言葉に詰まった。そこまで細かい話し合いはクラスでも詰めていない。
そもそも、出展内容が確定してから、クラスで具体的な内容を決定し、生徒会本部に報告して、細かい指示を受ける仕組みだ。
「お化け屋敷の規制って、なんだよ」
市ノ瀬くんがつぶやく。私は手元の資料を漁って、それを北見くんに見せた。
「常時、教室内に監視員を配置、男子のみでなく女子監視員を含めた3人以上を、演者以外で必ず配置しておくこと、30分に一回、5分間は教室を全面開放、明るさを元に戻して、室内の落とし物等の確認!」
「出来るだろ、お化け屋敷の規制を守るって言え」
北見くんが、規約の遵守を宣言した。その言葉に、立木生徒会長は微笑む。
「では、具体的にプラネタリウムはどのように実施するつもりですか?」
クラスに配分される予算は決まっている。個人の私物の使用は原則として認められていない。
特別な機材が必要な場合は、生徒会から外部に依頼するようになっている。それでも、予算の範囲内という規定には変わりない。
「手作りの段ボールハウスを三つ程度、室内に作る予定です。そこで、3千円程度の市販の投影キットを使用します。教室内の空いた空間には、天文に関するポスターを作成し、天体に関して調べたことを発表する予定です」
北見くんは、とても優秀だった。
一年生の時にも提案して、クラス内で却下された経験があるらしく、今回のプレゼンの依頼があってから、ほぼ徹夜状態で、たった一日でプレゼン資料を作成してきたらしい。
出店一位の希望は、多数決で喫茶店になったものの、クラス内二位を獲得したのは、彼の熱意があってこそだ。
ネットからダウンロードしたとかいう、段ボールプラネタリウムの画像を、何枚かその場で見せた。
「やるね、北見くん!」
「すごいな」
市ノ瀬くんと目があった。自然と笑顔になる。
北見くんから受け取った資料を、立木先輩と淸水さんが順番に見ている。本部の数人でその資料を確認してから、立木先輩が言った。
「分かりました。許可しましょう」
「やった!」
三人でハイタッチ! 私たちは、生徒会室から飛び出した。
「やった、意外とあっさり決まったな!」
「うん、北見くんすごーい!」
廊下を、自分たちの教室に向かって走る。飛び込んだ教室で、北見くんは叫んだ。
「プラネタリウムに決まりました!」
大きな歓声と拍手の渦が巻き起こる。早速、北見くんは生徒会プレゼン用の資料で、具体的な作業を説明し始めた。
「これから、具体的な作業と、班分けだな」
「うん、生徒会本部への、報告書も作らないとね」
市ノ瀬くんが笑って、私も笑った。
うれしかった。
確かに喫茶店もやってみたいし、仮装とかラテアートとか、クラスでお菓子、ジュース飲み放題なのはうらやましいけど、プラネタリウムも悪くない。
その場に集まった数人で、自然と話し合いが始まった。
段ボールを集める係とか、ポスター係り、製作班をどうやって分けるかとか、具体的な中身は、きっと北見くんたちに任せて大丈夫、クラスの雰囲気も悪くない。
「北見がやってくれるから、俺たちは楽だな」
「そうだね」
市ノ瀬くんの横顔が、なんだかとてもうれしそうで、見ている私もうれしくなる。
「もう、最初はどうなることかと思ったけど」
「な! なんとかなるもんだろ?」
彼が得意げにニッとするから、私は怒ったフリをしておく。
「すっごい心配してた!」
「あはは、これから日程どうする? 本番までの行程表書くだろ?」
「一緒に書こうよ」
「うん」
生徒会のから渡された用紙をはさんで、市ノ瀬くんとたくさん話しをした。
学園祭って、やっぱり特別だよね、彼も体育祭とか公園掃除なんかと違って凄く積極的で、そんな彼と一緒に、あーだこーだと言い合っているのは、やっぱり楽しい。
「あぁ、俺はもう、部活に行かないといけないけど」
彼は、教室の時計を見上げた。
「悪いけど、行ってもいいかな」
そんな珍しい謙虚な態度に、今日は素直に「うん」とうなずける。
後は私と北見くんで相談しておくと言うと、彼は手を振って、急いで教室を出て行った。
その日の帰り道、正門の横からフェンスをのぞき込むと、ボールを追いかける市ノ瀬くんの姿があった。
目と目が合った時、手を振ったら、彼も振り返してくれた。
私はそんな彼の姿と、その仕草だけで、家に帰りつくまでに、8回は思い出し笑いができた。