君と一緒に恋をしよう
#7『進捗監視・報告係』
体育祭が目前に控えていた。帰宅部の私は生徒会本部に入り、全体の進行をチェックする役割が与えられる。
進捗監視・報告係、そう言ったら、奈月に「怖っ」って笑われたけど、自分ではパシリの連絡員だと思っている。
本番前日の準備の日、天候は良好、テント設営係の野球部と柔道部が、すでに校庭にいくつかの白い三角屋根を立て始めていた。
「じゃ、志保ちゃん、よろしくね」
なぜか梨愛に懐かれてしまった私は、彼女と二人で校内の準備状況をチェックして回ることになった。そのリストを淸水さんから渡される。
「じゃ、この通りに巡回して、問題があったらすぐに本部に報告してね、いってらっしゃい!」
「はい!」
梨愛は元気よく返事をしたけど、私には何となくそんな気にはなれない。初めて渡されたチェックリストを初めてチェックする。
「じゃ、行こっか」
梨愛は勝手に歩き出した。
どこをどう見ればいいのか、ホントに分かってるのかな? なかり不安だ。
まずは校門、美術部が正門に取り付ける看板を作っていた。
真っ白い板に、レタリングされた文字が並ぶ。各校門の飾り付けと、入退場の門作りが彼らの担当だ。
生徒会の腕章をつけた私たちが近寄ると、部長らしき人が立ち上がって、笑顔で手を振った。
「正門設置作業、順調ですよー!」
私たちは、門のチェックリストに〇をつけて、次へ向かう。
門のすぐ脇には、受付と救護班のテントがあった。
そこには警備係のバスケ部と、救護担当の茶道部が詰めている。テントには、津田くんと千佳ちゃんがいた。
津田くんと目があうと、彼は私に手招きをした。私たちが近寄ると、彼は学校の見取り図を片手に質問を始める。
「体育祭のさ、競技出場者と、周辺警備の時間をずらして担当を決めろってことなの? 絶対に回ってなきゃダメ?」
私は、生徒会で頭に叩き込まれた『体育祭運営マニュアル』を思い出す。
「二人のペアで回ってればよかったはず、とにかく、誰か二人が、警備ベスト着て校内にいればそれでいいから……」
「うち、部員減ってるのに、辛いな、一人じゃダメ?」
「当番表の提出、今日までだから、よろしく」
津田くんはため息をついた。急に彼の顔がぐっと近づいて、私の耳元でささやく。
「そこはさ、志保ちゃんの力でごまかせないの?」
「ムリ! ちゃんとやってください!」
私が怒ったフリをしたら、彼はおかしそうに笑った。
ホントに、ごまかすって、何をごまかすつもりなんだろう、私に何をさせる気だ、この人、絶対ふざけてる。後で周回当番表、ちゃんとチェックしておこう。
隣接するテントでは、千佳ちゃんが退屈そうにぶらぶらと座っていた。
「もう、準備はOK?」
「うん、保健室で、他の部員が保健用品のチェックをしにいってる。アイスノンとか、絆創膏とか」
置かれた机の上には、お茶や水を入れる大きなジャグが用意されていた。
「もう中は洗ったの?」
「うん、茶道部だから飲み物係っていう、センスもおかしいよね」
腕時計をちらりと見た。一時間ごとに、本部に戻って報告を入れないといけない。
「志保ちゃん、戻らないと」
梨愛に言われて、私たちは本部へと戻った。
本部テントは、生徒会と司会進行役の放送部、記録・撮影係の映画部が、合同でテントに入っている。立木先輩は、放送部との打ち合わせをしていた。
どうしよう、ここで忙しそうな立木先輩に、話しかけるわけにもいかないな……。
「あ、定時報告?」
後ろから淸水さんの声がして、振り返った。プリントを見せながら、進捗状況を説明する。
この人と話しをする時は、どんな内容でも凄く緊張する。
ちょっとでもスキを見せたり、間違いや失敗を彼女に指摘されてされたら、一生自分が自分に腹を立ててそうだ。
「ゆかり、ちょっといい?」
大きな影がさして、その報告を中断させたのは、上川先輩だった。
「大玉転がしの玉、空気が抜けまくってぺこぺこ、アレ、そのままだと使えねーよ」
淸水さんは立ち上がり、上川先輩に寄り添うようにして立つ。
彼女は彼の話を簡単に聞いてから、手招きで立木先輩を呼んだ。
淸水さんを中心にして、上川先輩と立木先輩が話し合っている。
ふいに立木先輩が何かを思い出したようで、その場を離れていった。
上川先輩は悠々とテントの屋根の骨組みに手をかけていて、その腕のすぐ真下に、彼女はすっぽりと収まっている。
ずっと真剣に二人で話し合っていた上川先輩の顔が、ふっと笑顔になった。何かを彼女にささやくと、淸水さんは笑って、その脇腹に軽いパンチを入れる。
上川先輩も笑いながら痛がるフリをして、彼女の髪に頬を寄せた。
上川先輩と視線がかち合って、私はパッと顔を背ける。それに気づいた彼女は、彼の元からそっと離れた。
「あぁ、ゴメンね、定時報告、もういいよ、続き、行ってきて」
にこっとした笑顔で、彼女は手を振る。
立木先輩が、大きなコンプレッサーを持って帰ってきた。
「慶、これで大玉に空気入れてみて」
「了解」
立木先輩が両手で運んできたそれを、彼は片手で軽々と持ちあげる。
私はうつむいていた。顔が上げられない、まっすぐに、この人の顔が見られない。
「志保ちゃん、次は、体育館横の用具係だよ」
梨愛の声に、上川先輩も振り返った。
「あぁ、じゃあ、一緒に行くか?」
私は先輩に、ちゃんと名前を覚えてもらってるのかな?
今は体操服じゃなくて制服だから、彼がもし名前を覚えていなくて、こっそりチェックしようとしても、分からないじゃない。
名前を見て、呼んでもらえることも出来ない。
自分からは話しかけることもできないし、話しかけられることもない。どうすれば、もう一歩この人に近づけるんだろう。
体育館横の倉庫の前には、玉入れのかごとか、障害物走の網とか、たくさんの用具が広げられていた。
サッカー部とハンド部が、交代で用具の出し入れをすることになっている。
上川先輩がコンプレッサーを持って現れると、そこには市ノ瀬くんたちが待っていた。
梨愛が誰よりも先に、市ノ瀬くんに駆け寄る。
「空気入れ、持ってきてくれたんっすか」
市ノ瀬くんは、上川先輩を見上げた。
「これ、取説らしいんだけど、分かる?」
それを受け取った市ノ瀬くんと梨愛は、一緒にのぞき込んでいる。
上川先輩は他の部員たちと一緒に、コンプレッサーの電源を探していた。
淸水さんとは、つき合ってるって、ことなのかな? 彼女?
だけど、そんな話し、聞いたこともないし、彼女と上川先輩が、委員会以外で一緒にいるところ、見たことないし。
後輩の一人が、延長コードを持ってきた。先輩は、それにコンセントプラグを差し込む。
淸水さんって、よく知らないけど、確か立木先輩とも仲よかったよね、てゆーか、あんなグーパンチとか、普通に仲がよかったら、友達同士でも全然ふつうにやるよね、
そんなの、特別なんかじゃない。
スイッチを入れたら、もの凄いエンジン音がして、コンプレッサーが動き出した。
「市ノ瀬、空気入れる穴、分かった?」
先輩の声が聞こえる。
大丈夫、上川先輩に、彼女がいるとか、聞いたことないし、自分から聞いてみたこともないけど。
どうしよう、誰に聞けば分かるかな。市ノ瀬くん?
「先輩、大玉のどっかに、ファスナーみたいな開くとこあります?」
上川先輩と市ノ瀬くんは、仲いいのかな?
同じ部活だけど、そんなことを彼に聞いちゃって大丈夫なのかな、
あぁ、他にもっと聞きやすい人、どっかにいないのかな、奈月? 梨愛?
「なぁ、小山、お前話し聞いてる?」
ふいに、市ノ瀬くんにそう言われて、私は我に返った。
「え? なに?」
彼はため息をつく。
「まー、別にいいんだけど」
上川先輩が空気穴をみつけて、そこにノズルを差し込んだ。
スイッチを入れると、さらに大きな音がして、徐々に大玉が膨らんでいく。
「これ、休み休み入れないと、コンプレッサーがすぐ動かなくなるみたいですよ」
梨愛がそう言って、上川先輩がため息をついた。
「あーそうか、分かった。本部には、何とかするって、連絡しといて」
私は、上川先輩を見上げる。
彼は、チラリと目を合わせて、「じゃ、よろしくね」とだけうなずいて、私に背を向けた。
よろしくって、誰によろしくって言えばいいんだろう、立木先輩? それとも?
「じゃ、次に行こうっか」
梨愛がそう言った。
「うん」
私はうなずいて、その場に背を向ける。
「じゃ、市ノ瀬くん、頑張ってね」
梨愛は手を振っていたけど、私は代わりに頭を振る。
ダメダメ、余計な事は考えない、上川先輩と淸水さんとか、そんなのただの友達に決まってる。
それ以外に、どんな関係がこの世に存在するっていうんだろう、そんなのありえない。
東門へやって来た。ここにはすでに体育祭の看板が掲げられていて、津田くんが同じバスケ部員の友達と来ていた。
「あぁ、志保ちゃん、正門から、東門、西門って巡回ルートで、よかったんだよね」
「う、うん」
彼を見上げて、何とかそう答える。今の私は、変な顔してない、平気、な、はず。
「ここで、しばらく立ってればいいの?」
「5分くらい」
「了解」
津田くんが握り拳を私に向け、グータッチを要求してきた。
私も迷わず軽く拳を握りしめ、グータッチを返す。彼はそのまま、次の巡回経路の見回りに行ってしまった。
そうだよ、いま私が津田くんとしたみたいに、アレは何気ない挨拶、あの二人は、ただ普通に仲がいいだけだ。
チェックリストに目を落とす。
生徒会の仕事に集中することにして、私はその日を乗り切った。
進捗監視・報告係、そう言ったら、奈月に「怖っ」って笑われたけど、自分ではパシリの連絡員だと思っている。
本番前日の準備の日、天候は良好、テント設営係の野球部と柔道部が、すでに校庭にいくつかの白い三角屋根を立て始めていた。
「じゃ、志保ちゃん、よろしくね」
なぜか梨愛に懐かれてしまった私は、彼女と二人で校内の準備状況をチェックして回ることになった。そのリストを淸水さんから渡される。
「じゃ、この通りに巡回して、問題があったらすぐに本部に報告してね、いってらっしゃい!」
「はい!」
梨愛は元気よく返事をしたけど、私には何となくそんな気にはなれない。初めて渡されたチェックリストを初めてチェックする。
「じゃ、行こっか」
梨愛は勝手に歩き出した。
どこをどう見ればいいのか、ホントに分かってるのかな? なかり不安だ。
まずは校門、美術部が正門に取り付ける看板を作っていた。
真っ白い板に、レタリングされた文字が並ぶ。各校門の飾り付けと、入退場の門作りが彼らの担当だ。
生徒会の腕章をつけた私たちが近寄ると、部長らしき人が立ち上がって、笑顔で手を振った。
「正門設置作業、順調ですよー!」
私たちは、門のチェックリストに〇をつけて、次へ向かう。
門のすぐ脇には、受付と救護班のテントがあった。
そこには警備係のバスケ部と、救護担当の茶道部が詰めている。テントには、津田くんと千佳ちゃんがいた。
津田くんと目があうと、彼は私に手招きをした。私たちが近寄ると、彼は学校の見取り図を片手に質問を始める。
「体育祭のさ、競技出場者と、周辺警備の時間をずらして担当を決めろってことなの? 絶対に回ってなきゃダメ?」
私は、生徒会で頭に叩き込まれた『体育祭運営マニュアル』を思い出す。
「二人のペアで回ってればよかったはず、とにかく、誰か二人が、警備ベスト着て校内にいればそれでいいから……」
「うち、部員減ってるのに、辛いな、一人じゃダメ?」
「当番表の提出、今日までだから、よろしく」
津田くんはため息をついた。急に彼の顔がぐっと近づいて、私の耳元でささやく。
「そこはさ、志保ちゃんの力でごまかせないの?」
「ムリ! ちゃんとやってください!」
私が怒ったフリをしたら、彼はおかしそうに笑った。
ホントに、ごまかすって、何をごまかすつもりなんだろう、私に何をさせる気だ、この人、絶対ふざけてる。後で周回当番表、ちゃんとチェックしておこう。
隣接するテントでは、千佳ちゃんが退屈そうにぶらぶらと座っていた。
「もう、準備はOK?」
「うん、保健室で、他の部員が保健用品のチェックをしにいってる。アイスノンとか、絆創膏とか」
置かれた机の上には、お茶や水を入れる大きなジャグが用意されていた。
「もう中は洗ったの?」
「うん、茶道部だから飲み物係っていう、センスもおかしいよね」
腕時計をちらりと見た。一時間ごとに、本部に戻って報告を入れないといけない。
「志保ちゃん、戻らないと」
梨愛に言われて、私たちは本部へと戻った。
本部テントは、生徒会と司会進行役の放送部、記録・撮影係の映画部が、合同でテントに入っている。立木先輩は、放送部との打ち合わせをしていた。
どうしよう、ここで忙しそうな立木先輩に、話しかけるわけにもいかないな……。
「あ、定時報告?」
後ろから淸水さんの声がして、振り返った。プリントを見せながら、進捗状況を説明する。
この人と話しをする時は、どんな内容でも凄く緊張する。
ちょっとでもスキを見せたり、間違いや失敗を彼女に指摘されてされたら、一生自分が自分に腹を立ててそうだ。
「ゆかり、ちょっといい?」
大きな影がさして、その報告を中断させたのは、上川先輩だった。
「大玉転がしの玉、空気が抜けまくってぺこぺこ、アレ、そのままだと使えねーよ」
淸水さんは立ち上がり、上川先輩に寄り添うようにして立つ。
彼女は彼の話を簡単に聞いてから、手招きで立木先輩を呼んだ。
淸水さんを中心にして、上川先輩と立木先輩が話し合っている。
ふいに立木先輩が何かを思い出したようで、その場を離れていった。
上川先輩は悠々とテントの屋根の骨組みに手をかけていて、その腕のすぐ真下に、彼女はすっぽりと収まっている。
ずっと真剣に二人で話し合っていた上川先輩の顔が、ふっと笑顔になった。何かを彼女にささやくと、淸水さんは笑って、その脇腹に軽いパンチを入れる。
上川先輩も笑いながら痛がるフリをして、彼女の髪に頬を寄せた。
上川先輩と視線がかち合って、私はパッと顔を背ける。それに気づいた彼女は、彼の元からそっと離れた。
「あぁ、ゴメンね、定時報告、もういいよ、続き、行ってきて」
にこっとした笑顔で、彼女は手を振る。
立木先輩が、大きなコンプレッサーを持って帰ってきた。
「慶、これで大玉に空気入れてみて」
「了解」
立木先輩が両手で運んできたそれを、彼は片手で軽々と持ちあげる。
私はうつむいていた。顔が上げられない、まっすぐに、この人の顔が見られない。
「志保ちゃん、次は、体育館横の用具係だよ」
梨愛の声に、上川先輩も振り返った。
「あぁ、じゃあ、一緒に行くか?」
私は先輩に、ちゃんと名前を覚えてもらってるのかな?
今は体操服じゃなくて制服だから、彼がもし名前を覚えていなくて、こっそりチェックしようとしても、分からないじゃない。
名前を見て、呼んでもらえることも出来ない。
自分からは話しかけることもできないし、話しかけられることもない。どうすれば、もう一歩この人に近づけるんだろう。
体育館横の倉庫の前には、玉入れのかごとか、障害物走の網とか、たくさんの用具が広げられていた。
サッカー部とハンド部が、交代で用具の出し入れをすることになっている。
上川先輩がコンプレッサーを持って現れると、そこには市ノ瀬くんたちが待っていた。
梨愛が誰よりも先に、市ノ瀬くんに駆け寄る。
「空気入れ、持ってきてくれたんっすか」
市ノ瀬くんは、上川先輩を見上げた。
「これ、取説らしいんだけど、分かる?」
それを受け取った市ノ瀬くんと梨愛は、一緒にのぞき込んでいる。
上川先輩は他の部員たちと一緒に、コンプレッサーの電源を探していた。
淸水さんとは、つき合ってるって、ことなのかな? 彼女?
だけど、そんな話し、聞いたこともないし、彼女と上川先輩が、委員会以外で一緒にいるところ、見たことないし。
後輩の一人が、延長コードを持ってきた。先輩は、それにコンセントプラグを差し込む。
淸水さんって、よく知らないけど、確か立木先輩とも仲よかったよね、てゆーか、あんなグーパンチとか、普通に仲がよかったら、友達同士でも全然ふつうにやるよね、
そんなの、特別なんかじゃない。
スイッチを入れたら、もの凄いエンジン音がして、コンプレッサーが動き出した。
「市ノ瀬、空気入れる穴、分かった?」
先輩の声が聞こえる。
大丈夫、上川先輩に、彼女がいるとか、聞いたことないし、自分から聞いてみたこともないけど。
どうしよう、誰に聞けば分かるかな。市ノ瀬くん?
「先輩、大玉のどっかに、ファスナーみたいな開くとこあります?」
上川先輩と市ノ瀬くんは、仲いいのかな?
同じ部活だけど、そんなことを彼に聞いちゃって大丈夫なのかな、
あぁ、他にもっと聞きやすい人、どっかにいないのかな、奈月? 梨愛?
「なぁ、小山、お前話し聞いてる?」
ふいに、市ノ瀬くんにそう言われて、私は我に返った。
「え? なに?」
彼はため息をつく。
「まー、別にいいんだけど」
上川先輩が空気穴をみつけて、そこにノズルを差し込んだ。
スイッチを入れると、さらに大きな音がして、徐々に大玉が膨らんでいく。
「これ、休み休み入れないと、コンプレッサーがすぐ動かなくなるみたいですよ」
梨愛がそう言って、上川先輩がため息をついた。
「あーそうか、分かった。本部には、何とかするって、連絡しといて」
私は、上川先輩を見上げる。
彼は、チラリと目を合わせて、「じゃ、よろしくね」とだけうなずいて、私に背を向けた。
よろしくって、誰によろしくって言えばいいんだろう、立木先輩? それとも?
「じゃ、次に行こうっか」
梨愛がそう言った。
「うん」
私はうなずいて、その場に背を向ける。
「じゃ、市ノ瀬くん、頑張ってね」
梨愛は手を振っていたけど、私は代わりに頭を振る。
ダメダメ、余計な事は考えない、上川先輩と淸水さんとか、そんなのただの友達に決まってる。
それ以外に、どんな関係がこの世に存在するっていうんだろう、そんなのありえない。
東門へやって来た。ここにはすでに体育祭の看板が掲げられていて、津田くんが同じバスケ部員の友達と来ていた。
「あぁ、志保ちゃん、正門から、東門、西門って巡回ルートで、よかったんだよね」
「う、うん」
彼を見上げて、何とかそう答える。今の私は、変な顔してない、平気、な、はず。
「ここで、しばらく立ってればいいの?」
「5分くらい」
「了解」
津田くんが握り拳を私に向け、グータッチを要求してきた。
私も迷わず軽く拳を握りしめ、グータッチを返す。彼はそのまま、次の巡回経路の見回りに行ってしまった。
そうだよ、いま私が津田くんとしたみたいに、アレは何気ない挨拶、あの二人は、ただ普通に仲がいいだけだ。
チェックリストに目を落とす。
生徒会の仕事に集中することにして、私はその日を乗り切った。