きらきら
白いセーターにジーンズを穿いた青年は、ゴテゴテと外部機器を備えつけた業務用のビデオカメラを、その場から一歩も動かずにただ一点に向けていた。

自然とそのレンズの先を追って見てみると、一本の大きな楓の木が立っていた。


遠目で見てもわかるほどに立派な葉を、溢れんばかりに付けている。


少し背の高い身体を押し曲げてカメラを覗きこんでいる青年を見ていると、わたしの心はどんどんその風景に惹かれていった。


おもむろにカメラを構えると、慎重にアングルを決め、だんだんとズームしていくと、青年の背中がちょうどファインダーの中心に落ち着いて、ぐっと心が弾む。


まさにシャッターを押そうとした瞬間に、先ほどまで秋空の雲に隠れていた太陽が顔を出して、青年の向こうから光が差し込み、反射的にシャッターを切ると、わたしは放心したようにその場に立ちつくしてしまう。


これまで幾度と写真を撮ってみても、埋まらなかった心の隙間が、たったの一枚で埋め尽くされるどころか溢れてしまったのだ。


顔が熱くなっているのを、冷たい秋風が頬に吹きつけるまで気付かなかった。


心臓は普段の鼓動を忘れてしまったかのように、どくどくと脈動している。


胸の高鳴りが治まりきるまで、けっこうな時間がかかってしまう。


一段と強い風が全身に吹きつけて、身が震えるぐらいの寒さを感じたわたしはやっとのことで我に戻る。


しかし、はっとしたときには青年の姿は無く、辺りは閑散として、遠くのほうから聞こえる学校のチャイムの音が妙に現実味を帯びていて、わたしは悄々(しおしお)とした心のやり場に困った。


家に帰ってカメラを机の置いても、シャッターを押した瞬間の衝撃は心から消え去りはせず、思い出す度に鼓動が速くなるのがわかる。


ああ、早く現像したい。わたしは焦れる心を必死に抑えていた。
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