きらきら
翌日、昼休みになると、わたしは仲の良い友達からの昼食の誘いをも蹴って、部室へと駆けこんだ。


部室の電気も点けずに暗室に入ると、さっそく昨日のフィルムを取り出す。


高校の写真部としては、この部室の暗室の設備は徹底されていて、塩化ビニル樹脂のシンクに、排気部に遮光装置の付いた暗室用の換気扇まで設置してある。


現部長によるともともと理科準備室であった部屋が新校舎ができるのに伴って、移転することになり、空室となった旧準備室を改造して現在の部室が出来上がったそうだ。当初はステンレスのシンクが薬品で腐敗し、ボロボロになってしまったり、遮光が十分でないのが問題で換気扇が回せず、薬品独特の臭いが充満している暗室だったらしく、さすがに耐えきれなくなった部員たちがカンパを持ち合って、部室の大改造をした結果、今のような設備の良い暗室になったそう。


それにしても理科の準備室に目をつけた写真部員は相当頭が切れる人だったに違いない。


実際、理科用の薬品が置いてあった棚が残っているおかげで、現像用の薬品を置く場所には困らないし、空き棚はフィルムやカメラの保管場所となっている。おまけに遮光用のカーテンはあまり余っているので、部費も浮く。


わたしにとって部室は自宅の部屋よりも便利の良い場所になっている。


高校に入るまでは写真を撮っても、現像をその辺のカメラ屋に任せていたので、すこぶる運が良くない限り、自分が求めている写真になって返ってくることがなかった。


しかし、高校に入ってからは、先輩たちから現像方法を一から教えてもらい、今ではカラー現像も行えるほどだ。といっても薬品代がバカにならないので、そう簡単に何枚も現像できるわけではないが。


わたしは、神妙な面持ちでフィルムを薬品に付けていく。印画紙に定着させ、現像した写真を一枚一枚丁寧に吊るしていく。十数枚を現像し終えたところで、例の写真が出てきた。昨日の晩から何度も現像したこの写真を思い描いた。そして今、実物が目の前にある。写真には逆行でシルエット化された青年の姿が、堂々と写っている。


わたしは心底驚嘆していた。その写真が思っていた以上に想像していたものに近かったことと、一枚の写真にこれほどまでに心を奪われるとは思っていなかったからだ。
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