きらきら
わたしはその写真を食い入るように見つめていた。


そうしていると心の中にある衝動が生まれた。


もっと写真を撮りたい。


わたしの心を揺るがしてくれる、そんな写真を。


わたしは無意識のうちに身震いしていた。


久しぶりに感じる写真を撮るという行為の愉しさに、酔いしれて。


パチッとスイッチを押す音が聞こえて、部屋が明るくなる。


写真の余韻に浸っていたせっかくの良い気分が台無しだ。まったく、誰なの。こんな時に。


暗室から出ると、一人の男子生徒がビデオデッキを引っ張りだして、部室の片隅にあるテレビへ繋ごうとしていた。出てきたわたしに気がついてその男子生徒がこちらへ振り返った。初めて見る顔だった。


「きみ、写真部じゃないよね?」


「違うよ」


短く返事をすると男子は作業に戻った。


「ここ写真部の部室なんだけどっ」


少し口調が怒った感じになってしまった。ただでさえ作業の邪魔をされて腹が立っているというのに、どうしてこんな生徒の相手までしなければならないのだろう。ああ、早く出て行ってくれないだろうか。


「うん、知ってる。でも、映像研究部の部室もここだから」


男子生徒が言った言葉にわたしは耳を疑った。


確かにここは映像研究部の部室も兼ねていたが、入学して以来そういった部員が部室を訪れることはなかったのだ。


昔、不思議に思って先輩たちに聞くと、映像研究部は名前だけが残って、部員はここ数年入部していないと言っていたことを覚えている。


なんとなく間が悪くて、わたしは彼の作業をしばらくの間見つめていた。彼は傍らに置いてあった黒いカメラケースから、大きなビデオカメラを取り出す。


それを見た瞬間、まさかと思った。彼が取り出したビデオカメラは、昨日偶然写真に写り込んだ青年の物と同じものだったからだ。周りに着いた機器もはっきりと覚えている、間違いない。


カメラから取り出したビデオテープをデッキに入れ、彼は再生ボタンを押した。ぱっとテレビの画面が明るくなる。映し出た映像はやはり、あの楓の木だった。再生し始めてから幾らかたったが、まったく映像に動きはない。カメラの角度が変わるわけでも、台詞が吹きこまれているわけでもなく、ただ延々と楓の木をカメラは捉えている。


ふと、画面から風の音が聞こえてきて、大きな楓の木が揺れ動いた、それに耐えきれなかった紅葉がはらはらと流れるように降り落ちていく、たったそれだけの映像なのに、わたしは心を打たれた。


再生速度は普通のはずなのに、わたしの頭にはスローモーションでその映像が刻み込まれていく。
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