美男と美女がうまくいくとは限らない。
春樹の茶色い瞳が覆いかぶさるあたしを映し出す
顔と顔の距離、10センチ。
「え?さ、咲妃乃?」
「ご、ごめんっ!」
あたしは焦って春樹から離れる
布団で顔を隠して恥ずかしさを紛らせようとする
「なーに、俺のこと襲おうとしてたの?」
「バカ!そんなわけないでしょっ」
「だって寝起き、めっちゃ乗っかられてたし」
「そ、それはただ春樹の顔見てたら手滑っただけで!」
必死に言い訳をするのに顔を覆っていた布団を剥がし、春樹の方を見る
片腕を首の後ろに回して寝っ転がったまま、あたしを見つめる彼
シャツから覗く肌や腹筋が大人の色気があふれていた
「っ…!」
「へえ、俺の寝顔見てたんだ?やーらし」
起き上がり、少し下からあたしを上目遣いして意地悪な言葉を浴びせてくる
「は、はやく服着て!目のやり場に困る!」
「俺の裸なんて、みんな見たがるのに」
「自意識過剰!いいから着てっ」
春樹はあくびをしながら返事をして部屋着に着替えていた
寝起きのボサボサな髪
いつもはしっかりセットされているが、こういうところでプライベートな春樹を見た気がした
「あの、さ」
思い切って昨日のことを聞いてみようと思った
この反応からすると、たぶん、なにもなかった…よね?
「昨日ってさ…なにも、なかったんだよね?」
台所でコップに注いだ水を飲む彼に問いかける
横目であたしを見る返事までの数秒がとても長く感じる
「ふっ」
「な、なによその笑い」
「昨日は楽しませてもらったけどね」
「へ!?楽し、楽しませて?」
「いやあ、最高だった。またしてもらおっと」
「…うそでしょ?」
「さあ?覚えてない咲妃乃が悪い」
瞬きすることを忘れて、残ってもいない記憶を辿る
辿ったところで答えは出てこなかった
ほんとに、あたし、春樹に?
いやいや、きっといつものからかいだ
そう、そうに決まってる
いくら酔っ払ったとはいえ、こういう間違いはしたことがない
…でも相手が4年片思いの春樹だったら?
「嘘なんだよね?」
「なんか腹減ったなー」
あたしの問いかけにはもう答える気がないようだ
冷蔵庫を漁る彼
そして4年間、止まっていた時計が動き始める