美男と美女がうまくいくとは限らない。
晴れのち曇り、時々雨。
春樹は一晩一つの布団で寝たというのに、いたって普通だ
いつも通りにあたしと話すし、緊張というものは全くない
そんな彼とは対照的に緊張感しまくり、ぎこちなさMAXのあたし
部屋を見渡すと、テーブルに開いたままのノートパソコン、タバコの吸い殻、飲みかけのペットボトル
テーブル付近だけで生活しているんだろうなと思うくらい、そのほかの場所は物がなく、片付いている
「来るって分かってたらちゃんと片したんだけど、どっかの誰かさんが潰れちゃったからなー?」
「う、すみませんでした…」
「相手が俺だったから良かったものの…他のやつの前では潰れるなよ?」
「あんな飲んだの久々だよ…」
「ま、俺も楽しかったし結果オーライだな!」
あたしのためにコップに冷たいお茶を注いでくれる
ザックリとテーブルの上を片して、あたしの目の前においてくれた
壁にかかっている時計に視線を移すと、針は10時半を指していた
だいぶ、ゆっくりと寝ていたみたいだ
乱れた髪を手櫛で整える
「あたし、これ飲んだら帰るね」
「ん。あ、咲妃乃」
「なに?」
「腹減った」
テーブルの向かいにあぐらをかいて座っている彼が帰ろうとしているあたしにただ、それだけを言った
「へ?」
「泊めてあげた代わりに飯つくって」
「ええっ!?」
「どうせ今日予定ないだろー?なんか人の作った昼飯が食べたい」
なんという横暴、かつ無茶振りな。
とは言っても彼の言う通り、予定はないし泊めてくれた恩義もある
…しかし、あたしは料理が得意な方ではない
ずっと彼氏がいない生活をしていたために、自分さえ食べられればいいやという料理スタンスになっていて、もてなす部類のお料理から遠く離れていた
「美味しいの、作れないかも…」
「おいおい、これから男落とすんだろー?男を落とすなら胃袋掴むのが手っ取り早いって。俺が練習相手になってやるから」
あたしは昨日、どんな話をしたんだろうか
なぜか好きな人を落とすっていう方向で話が進んでいく
酔っ払った勢いでそんなことを言っていたのだろうか
…好きな人を目の前にして宣戦布告なんて、まさかね
「…なんでもいいの?」
「咲妃乃が1番得意だなって思うもの、作ってよ」
あたしはこの笑顔に弱い
仕事中には見せない、子供のような無邪気な笑顔
こうして、あたしはうまく丸め込まれて、好きな人のためにお昼ご飯をつくることになってしまった