美男と美女がうまくいくとは限らない。
そう、あれは確か3年目の冬だった
入社して3年。
3年経てば仕事にも慣れて余裕が生まれてきて、いつしか辞めたいという気持ちもなくなるよ
よく聞く言葉だったけれど、あたしは例外だったらしい
仕事に慣れてきたのは間違いないが、任される仕事に重みや量が増してきた
要領よく仕事のできなかった当時のあたしは知らず知らずのうちに残業は当たり前、終電帰りの日々を送っていた
「咲妃乃まだ帰らねえの?」
「あ、うん。まだまだ仕事残ってて帰れない」
いい意味で、ある程度妥協のできる春樹はあたしほど残業をしていなかった
ここ最近は毎日、お先にって帰る姿を見ている
「ちょっと頑張りすぎじゃね?
たまには明日に回して気晴らしに飲みに行こうぜ?」
「でも…明日までにこの資料完成させなきやいけなくてさあ」
行けるのなら全然行く
行ける余裕は全くなかった
「んー…よし。明日、朝手伝ってやるから今日は俺に付き合え」
「え、いいよ、自分の仕事は自分でやるから」
「俺が飲みに行きたいの」
「それなら湊とか声かけてみたら?」
「湊とはいつも飲みに行ってるし、今日は咲妃乃と行くっつてんの」
その日はやけにしつこかったのを覚えてる
後半、正直めんどくさいなあと思いながら半分聞き流して資料を作っていた
するとあたしのデスクまで春樹が来て……
「う、わあっ…!」
強引にあたしのイスをクルッと回し、春樹の方へと向けた
面と向かった春樹の顔がやたらと近くて、じっとあたしを見つめている
色素の薄い瞳に少し長い前髪がかかっている
整った目鼻立ち、傷ひとつないきれいな肌
あれ?こんなにカッコよかったっけ…と改めて思う
ああそっか、入社して3年が経って25になって。
大人っぽくなったのかなと。
「ほら、行くぞ」
「え、ちょっ…」
少しの間、見とれていると急に腕をグイっと引かれてイスから立ち上がる
「俺、今日は飲みたい気分なの」
「……わかったよう」
あたしはようやく観念して会社近くの居酒屋へと向かうことにした