美男と美女がうまくいくとは限らない。



近くの居酒屋に入るとテーブル席に案内され、向かい合って座る


こんな時間に飲みに来たのはいつぶりだろ…
本当に大丈夫かな…明日の資料…


来たはいいけど、結局仕事のことが頭から離れなかった



「おい、もう仕事のこと考えるな」

「え?か、考えてないって」



表情に出やすいあたしはきっと顔に文字でも書いてあるかのようにわかりやすかったんだと思う


最近は仕事をしていないときでも仕事のことを考えてしまって、少しでも気を緩めると何かミスをしてしまうのではないかと不安になる



「気張りすぎ。不安になりすぎ。顔、死んでる」

「なっ…失礼な!」

「最近仕事しすぎ。なに、仕事が恋人ってか?」

「そんなんじゃないけど、仕事頑張りたくて…」

「なあ、咲妃乃は何のために仕事してんの?」



何のために、と言われると…考えたこともない


与えられた仕事や、自分で取ってきた仕事をこなして、上司に認められるのは嬉しかった


でも正直…誰も知らないところで訳もわからず涙を流している時もある


心身が疲れ果てて、ご飯すら食べる気力がなくなって、家に帰ったら寝るだけ


起きたらまたすぐ出勤して…身体を痛めつけてた



「身体、限界だろ?無理するな」



あたしの頭に優しい手が触れる
ポンポンとしたあとにその手をビールへと持っていく


春樹はジョッキをカチャンと合わせて喉へとビールを流し込んでいく


優しい言葉が、身にしみる
春樹の手があったかすぎた


じんわりの視界が揺らいでいく


溢れそうな涙をかき消すようにあたしもビールを喉へ通していく


久々の感覚
喉をキツイ炭酸が通っていって後から美味しい苦味が来る


きっと春樹はあたしのオーバーワークを無理矢理に止めてくれたんだと思う
だから今日はしつこく飲みに誘ってきたんだと思う



「ありがと…春樹」

「ん?俺は飲みにきたかっただけだって」



変にカッコつけちゃって。
ビールのせいかな…いつもよりも酔いの早い今日はそんなことしなくても、春樹はとっても素敵に見えた



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