美男と美女がうまくいくとは限らない。
場所をいつもの居酒屋へと移し、
ビールを2つ頼むと間もなく目の前にそれが置かれる
「おつかれー」
手元へ来たビールをお互いに合わせてカシャンッといい音が鳴る
強い炭酸が喉を通り抜けて体に染み渡る
どうしてこんなにも仕事終わりの1口目は美味しいんだろう
苦手だったビールも30手前になると大好きなものになっていた
「2人でここ来るの久々だよな」
ビールを喉に通したあとの一言目
思いがけない言葉に目を丸くした
「覚えてたの?」
「だってあの時初めてお前が泣いてるの見たからなー」
電子タバコを吸いながら思い出すように話す春樹
4年も前のことを覚えていてくれたことは嬉しいが今となっては少し恥ずかしい記憶
泣いたのがバレないようにしてたはずだけど、そりゃあ…バレてないわけもないか
「なんか、俺だけに見せる顔てきな?咲妃乃も女なんだなあって思った」
「あ、あたしは生まれてからずっと女ですから!」
「お?わり、俺気づいてなかったわ」
楽しそうに笑っていつものようにあたしをからかう
やり取りは本当に中学生レベル
でもこうやっていじられるのは…正直嫌いじゃない
「それより最近どうよ?」
「ん?どうって?」
「男はできたか?」
「…そんなの作るヒマなかったもん」
春樹から恋愛ネタを振ってくるなんて珍しかった
普段同期たちと飲みに行っても仕事の話ばかりで恋愛トークはなかなかすることがない
でも…好きな人と恋愛トークはなかなかしにくい
「忙しいってのも考えもんだよなあ。でも女にとっては30目前って結構大きいんじゃないの?」
確かにあと少しで30というのは考えることが増えた
あたしの将来設計では30歳では結婚しててもいい歳だと思っていたけれど、現実は仕事に明け暮れて、好きな同期とは進展なし。
「う…ま、まあそうだね。春樹だって最近どうなの?」
「ん、俺か?俺は…」
自分の話をすると春樹のことになってしまいそうで話を逸らしたかった
こういう機会にしか聞けないし
春樹のこと、聞いてみよう