夏空フィッシュテール
第2章

きっかけは楽しみの理解

吐く息の白さに面白味を感じてはまた吐いてを繰り返す。紅葉も終わり景色も寂しくなったていた。
夏樹さんに話を聴いてもらったあの日以来、夏樹さんは次のイベント用に作品作りに追われ、みちるさんも仕事が忙しいらしくなかなか時間が合わなくて会えていない。かくいう私も新事業所がオープンして慌ただしい日々を送っていた。

雨が降るわけでもないのに灰色の世界みたいに重たい景色を眺めながら、お母さんの運転する車でデパートに向かっていた。そこには手芸屋さんがテナントとして入っていて、夏樹さんが言っていた編み物の楽しさが気になった私は素人ながらに挑戦してみようと今日は休みだし、下調べを兼ねて実物に触れてみようと行動に移したわけだ。

「終わったら迎えに来るから電話して。遅くなる時もね」

お母さんはそう言って自分の用事へと向かった。

手芸屋さんは3階にあるのは知っているけどあまり行ったことはない。エスカレーターで3階まで上がっている途中で左手に楽器屋さん、右手に本屋さんが見えた。初心者用に本も必要かもしれないと思いながらエスカレーターを降り、手芸屋さんへと足を進めた。
平日の午前中はさすがに空いている。
向かって右手に毛糸のコーナーがあり、色とりどりの毛糸に心が弾む。グラデーションになっている糸やふわふわの毛を纏った糸。太さも触った感じも違って、初心者にはどれがいいんだろう・・・。
2種類を持って比べてみても全然わからない。
諦めてそのまま店員さんに聞いてみようと奥に行くため向きを変えると「あれ、みひろちゃん?」と後ろから声がした。
振り返るとそこにいたのは夏樹さんとみちるさんだった。

「偶然だね!久しぶりだけど元気だった?」

みちるさんは相変わらずのハイテンション。
「はい」とだけ答えるとそうかそうかと私の頭を撫でまわす。

変わらないみちるさんの対応になんだかホッとした。

夏樹さんはというと、最初は驚いたような顔をしていたけど、私たちのやり取りを見ていつものやれやれと言いたげな表情になっていた。
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