奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「彼女はジュリア メイディランド、看護科。シャルルと社交ダンス《サークル》が一緒なんだよ」

「はじめまして、ジュリアです」

「はじめまして、俺はアダム ウィンチェスターです」

「お前、ジュリアのことタイプなのか?」

 ピエールが俺を冷やかす。

「ピエール、茶化さないでくれ。構内で見かけないと思っただけだ」

「ジュリアは看護科だからな。それに最近サークルに加入したんだよ。ジュリア、アダムは恋人募集中なんだよ。よかったら付き合ってやってよ」

 ピエールが勝手に話を進めている。純情な彼女は、林檎みたいに頬を赤く染め俯いた。

「わっ、マジで可愛い。アダムのこと宜しくね。こいつ勉強ばかりしていて、頭カチカチなんだよ。ジュリアみたいな癒し系の女の子が傍にいてくれたら安心だよ」

「ピエール、何を言ってるんだ。ジュリアが困ってるだろ。俺、用事があるから、またな」

 俺はピエール達に小さく手を振り背を向ける。彼女は頰を真っ赤に染めたまま、俺にペコリと頭を下げた。

 今時、こんなにも純情な子がいるんだ。

 ピエールの周りには、公爵令嬢や伯爵令嬢がたくさん群がっているから、彼女が妙に新鮮に映った。

 立ち去ろうとした俺に、ピエールが叫んだ。

「アダム!電話番号ちゃんと聞いとくからな」

 余計なお世話だってこと、わかんないのかな。

 俺の頭の中は、あの日出逢った女性のことでいっぱいなんだ。他の女性に興味はない。

 ジャケットのポケットに両手を突っ込み、空を見上げる。

 この青空は彼女の住む街まで、続いているのかな……。
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