奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 落雷したのではないかと思うほどの激しい音に、フローラが突然両手で頭を押さえ踞った。

「フローラ……どうした?雷なら大丈夫だよ」

 ピエールは跪き、フローラを心配そうに覗き込む。

「頭が割れそうに……痛むの。こんな雨の日に……何処かで誰かに逢った気がする。思い出そうとしたら……頭が……」

 フローラは頭を押さえ、その場に倒れた。ピエールはフローラを抱き起こす。

「フローラ……、フローラ……。無理して思い出さなくていいんだよ。さあ、神の前で永遠の愛を誓おう」

 雷は止むことなく、次々と稲光を放ちゴロゴロと音を鳴らした。教会の中は騒然とする。着席していた参列者が立ち上がる。

「フローラ……。誓いのキスを……」

 ピエールが優しくフローラにキスをすると、倒れていたフローラが瞼を開け、体を起こした。

「よかった。フローラもう大丈夫だよ」

「ピエール?どうして……私はここにいるの……?私……」

 フローラは教会を見渡した。
 そして自分が身につけていたウェディングドレスを見つめ、驚いたように目を見開いた。

 状況を把握したフローラは……
 小声で……ピエールに問いかけた。

「これは……結婚式……」

「そうだよ。俺達の挙式だよ」

 フローラは参列者に視線を向けた。

「お父様……お母様……。ジュリア……!?」

「フローラ……。もしかして、全部思い出したのか?」

 フローラの視線は宙を彷徨い、俺を捉えた。

「……ア……ダム」

 フローラの瞳に涙が溢れた。
 その涙は、フローラの頬を濡らす。

 純白のウェディングドレスを身につけたフローラが、泣きながら右手をお腹に当てた。

「……どうして?……どうして?いやあぁ――……」

 フローラは突然悲鳴を上げ気を失った。

「……フローラ!フローラ!」

 騒然とする参列者。
 ピエールはフローラを抱きかかえた。
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