奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「すみません神父様、ご参列の皆様。フローラは体調が思わしくなく、挙式はこれにて終えさせていただきます。披露宴までにはまだ時間はございます。フローラを少し休ませて下さい」

 ピエールは深々と頭を下げ、フローラを抱きかかえバージンロードを歩く。

 気を失ったフローラは……
 ピエールにもたれ掛かったままだ。

 凛としたその姿に、二人はもう夫婦なのだと痛感した。

 激しく降っていた通り雨と、不気味に光っていた雷はいつの間にか止み、教会に太陽の光が差し込んだ。

 俺は……
 フローラを浚って逃げたかった。

 失った記憶を取り戻したフローラを……
 今すぐ浚って逃げたかった。

 でも……
 両家のご両親や親族の前で、そんなことは出来なかった。そんなことをすれば、ピエールとフローラの立場を貶めるばかりか、ロンサール公爵とヴィリディ伯爵の怒りに触れ、父がどんな罰を受けるかわからない。

 自分や親の立場ばかり考えている不甲斐ない俺は、その場に呆然と立ち竦む。

 ジュリアに声をかけられ、ハッと我に返った。

「アダム君、私が様子を見てくるから。待ってて」

 教会を出るジュリアの後ろ姿を見届け、俺も教会の外に出た。

 雨粒に濡れた緑の葉からこぼれ落ちる太陽の光……。

 樹木の間から……綺麗な虹が現れた。

 今にも消えてしまいそうなくらい、淡いパステルカラー……。

 ――フローラとあの日……

 一緒に見た虹………。

 フローラ……

 俺達……

 どうしてこんなことになってしまったのかな……。
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