奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 激しい雨と雷の音で……
 脳裏にフラッシュバックのように、次々と風景が浮かんだ。

 稲光とともに微かに記憶が蘇る……。

 ――誰かと……
 以前、同じような光景を見たことがある……。

 顔の見えない男性……。
 優しく微笑む口元……。
 柔らかな黒髪……。
 ブラウンの瞳……。

 頭が……割れるように痛い。

 思わず……その場に座り込み瞼を閉じた。

 ――アパートの窓に打ちつける激しい雨。

 体がブルブルと震え寒気が襲う。

 震えている私を抱き締める優しい手……。

 逞しい体が……
 私を……優しく包み込む。

 バリバリと地面を揺るがすほどの雷の音。

 鼓膜を切り裂くような激しい音が、欠落していた記憶を蘇らせた。

 ――その時……
 その男性の顔が、はっきりと脳裏に浮かんだ。

『ア……ダム……』

 失っていたセピア色の記憶は鮮やかな色となり、止まっていた時計の針が動きだす。

 ――閉じていた瞼を開くと……
 そこは教会だった。

 私の目の前には、白いタキシードを着用したピエール。

「ピエール?どうして……私はここにいるの……?私……」

 周囲を見渡すと、両家の両親や親族。
 そして……ジュリア。

 チャペルの一番後ろには、正装をしたアダムが立っていた。

「……どうして?……どうして?いやあぁ――……」

 ――ああ、神様……。

 感情が高ぶり涙は止めどなく溢れた。

 こんな辛い再会はしたくなかったよ。

 アダムに……ここで……
 逢いたくなかったよ。

 どうして私がピエールと……?
 どうして……。

 混乱した私は……
 その場で意識を手放した。
< 104 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop