奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【アダムside】

 ジュリアが俺のところに戻って来た。
 ジュリアは顔面蒼白で、明らかに様子がおかしかった。

「ジュリア、フローラに逢えた?」

「ごめん。逢えなかったの。控室に入れる雰囲気じゃなくて、直接逢ってないの」

「……そう」

 暫くして、ピエールとフローラが礼拝堂に戻って来た。

「挙式の途中で退室し、大変申し訳ございません。ご心配をお掛けしましたが、フローラの体調も落ち着いたので、予定通り宿泊先のホテルで披露宴を行います。馬車に分乗してホテルまで移動して下さい」

 ピエールの隣で、フローラは何事もなかったかのように頭を下げ微笑んでいた。

 俺達は馬車に分乗し、宿泊先のホテルに向かった。その間もジュリアはずっと黙っていた。

「ジュリア、気分でも悪いの?大丈夫?」

「大丈夫……」

 ジュリアは思い詰めているようだった。

 宿泊先のホテルでの披露宴は、親族と親しい友人を招いただけの細やかなものだった。

 ロンサール公爵家もヴィリディ伯爵家もフローラの妊娠を気にしてか、貴族の来賓者は招かず、披露宴は始終和やかな雰囲気で行われた。

 ピエールはフローラの体を労り、フローラの傍を片時も離れなかった。

 幸せそうな二人……。
 俺の入り込む余地など、もうどこにもない。

 そんなことは、重々理解した上で披露宴に参列しているのに、フローラが披露宴の最中、俺と一度も視線を合わせることがないことに、違和感を抱いた。

 まるで、俺がここに存在していないかのように、俺を意識的に避けている。

 礼拝堂で俺を見つめたフローラ……。
 あの涙は一体何だったのか……。

 幸せそうな二人を正視することができず、俺は虚しさで押し潰されそうになる。

『自分の気持ちにケジメをつける』
 そう思っていたのに。
 ケジメなんてつけれるはずはない。

 俺は……
 今でも……フローラを……。
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