奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ジュリアは俺の隣で、貝のように口を閉ざしたまま、殆ど料理に手をつけなかった。

 披露宴も終演になり、俺達は会場からフロアに出る。

「一時はどうなるかと思ったけれど、無事に披露宴が終わってホッとしたわ。記憶も戻ったようだし、一安心ね」

「そうともいえないよ。挙式を中断したんだ。今後のこともある。ロンサール公爵にあとでお詫びに伺おう」

「そうね。そうしましょう」

 ヴィリディ伯爵夫妻の会話が、微かに聞こえた。夫妻はジュリアをフロアに残し、ロンサール公爵の元に歩み寄る。

 俺は気疲れから、ソファーに腰を落とした。

「全部嘘っぱちよ」

 ジュリアが俯いたまま、ポツリと言葉を発した。

「……ジュリア?どうしたの?」

 ジュリアは視線を上げ、俺の目を真っ直ぐ見つめた。ジュリアの目には涙が滲んでいる。

「ジュリア……」

「私……アダム君のことが、ずっと……ずっと好きだった。でも……こんなこと、神への冒涜《ぼうとく》だわ。あの挙式披露宴は全部嘘っぱちよ。私……プランティエでフローラに酷いことをしたの。こうなったのは、全部私のせいだわ。本当なら……アダム君とフローラが結婚するはずだったのに。私が……全部壊したから……」

 ジュリアは顔を両手で覆い泣き崩れた。

「ジュリア、どう言うこと?」

「私……聞いてしまったの。私……もう嘘はつけない。アダム君とフローラを引き裂いたのは……私だから……」

「……ジュリア?」

「教会の控え室で、ピエール君とフローラが話していたの。ピエール君が『この子は俺の子供として、立派に育てるから心配はいらない』って、それって違うって事だよね?フローラの赤ちゃんは、ピエール君の子供じゃないって事だよね……」

 俺は……
 ジュリアの言葉に動揺を隠せない。
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