奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ――『この子は俺の子供として、立派に育てるから心配はいらない』

 どういう意味なんだよ。

 ――『フローラの子供は俺の子供だ。バカバカしい。他人の子供を身籠もった女性と結婚するほどお人好しじゃない』

 挙式前日のパーティーで、ピエールは俺にこう断言したんだ。

 フローラの子供は……
 ピエールの子供じゃないのか?

 フローラが教会で溢した涙は……。

 まさか、フローラの記憶が……完全に戻ったのか!?

 俺のことを……全部思い出したのか!?

 だから……披露宴で俺から視線を逸らしたのか?

 俺はソファーから立ち上がる。
 泣いているジュリアを残し、新郎新婦の控え室に向かった。

 ◇

 ―新郎新婦控え室―

 俺は意を決してドアをノックする。

「はい、どうぞ……」

 フローラの優しい声がした。
 ドアを開けると、フローラと視線が重なった。直ぐさまフローラは視線を逸らした。

 明らかに動揺している。
 挙式前日のパーティーで挨拶を交わした時の表情とは、明らかに異なる。

「……ウィンチェスターさん。ピエールは席を外していて……」

「君に大切な話があるんだ」

 フローラは怯えたように俺に背を向けた。

「ピエールを呼んできます」

「フローラ!ピエールじゃない。君に話があるんだ!」

 コツコツと靴音がし、隣室のドアが開く。

「フローラ、誰か来たのか?」

 ピエールが俺に視線を向けた。
 その目は、一瞬で鋭くなる。

「アダムか。こんな時間にどうした?もう披露宴は終わったんだ。俺達は疲れてるんだ。遠慮してくれないか」

「どうしても、今、二人と話がしたい」

「座れよ」

 ピエールに促され、俺はソファーに座った。ピエールは俺と向かい合うようにソファーに腰をおろした。

「フローラも座って欲しいんだ。頼むよ」

 ピエールはフローラに視線を向けた。

「フローラ、君もここに座って」

 フローラは小さく頷くと、ピエールの隣に座った。
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