奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「アダム、話はなんだ?もう挙式も披露宴も終わったんだ。今さら、何の話があるんだ」

「わかってる。今さら俺がどうこう言える立場じゃないことくらい、わかってるよ。フローラは教会で記憶を取り戻したんだよな?俺はフローラの口から真実を聞きたい」

「真実?一体何のことだ」

「ジュリアから聞いたんだ。教会でピエールとフローラの会話を聞いたらしい」

「俺達の……会話?」

 室内にピリピリとした空気が流れる。

「ピエール、『この子は俺の子供として、立派に育てるから心配はいらない』って、言ったんだよな。それはどういう意味なんだ」

「……それは」

 ピエールは眉をしかめ、唇を噛み締めた。

「それはね……アダム君。この子がピエールの子供だからよ。ピエールが居なかったら、私はこの子を生む勇気はなかった。私ね、この子を殺そうとしたの。でも病院に行くことが出来なくて……。
 この子の命を救ってくれたのはピエールなの。この子の父親になってくれたのは、ピエールなのよ」

 フローラの瞳が涙で潤む。その涙は次々と溢れ出し頰を濡らした。

「俺は……何も出来ないのか」

「あなたは何も出来ないわ。今も……これから先も……。私とピエールはもう結婚したの。この子の父親はピエールなのよ」

 泣き出したフローラの手を、ピエールがそっと握った。

「……そうか、わかったよ。俺は必要ないんだな。もう何も言わない。幸せになってくれ……」

 俺の目に涙が滲む。
 俺があの時、フローラを残してマジェンタ王国に帰国しなければ、こんなことにはならなかったんだ。

 俺はフローラを孤独に貶め苦しめた……。
 そのフローラを救ったのが、ピエールなんだ。

 時を戻す事なんて……
 もう出来ないんだな。

 俺はソファーから立ち上がり、二人に背を向け部屋を出た。ドアを閉めると涙が溢れ、男のくせに嗚咽を漏らした。

 俺は……
 二人にとやかく言う資格なんかないんだ。

 俺はあの時……
 フローラの手を離してしまったのだから。

 後悔が胸を突き上げ、心を締め付ける。

 フローラへの想いが……
 止めどなく頬を濡らした。
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