奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【2】交換日記
 俺はルービリア大学医学部医学科の二年生。この大学で異例な存在だ。

 正直、公爵家とか伯爵家とか俺にはピンとこない。俺達は同じ王国に生まれ、同じ空気を吸い、自然の恵みを受け生きている。
 
 でもこれは……
 弱者の遠吠えなんだよな。

 俺は学費を免除してもらえる特待生であり続けるために、学年トップの成績を維持しなければならないのだから。彼らは学年最下位でも、財力や地位で医師になることは可能だ。

 平民の俺が、何故医師を目指したのか……。それは、七年前に母を病気で亡くしたから。

 当時、十三歳だった俺には、母の死を受け入れることが出来なかった。

 俺の住むイージスは田舎町だ。設備の整った総合病院はなく町医者しかいなかった。小さな診療所には母の病気を治療できる十分な設備も、治療薬もなかった。

 生活をすることが精一杯だった父には、母をイージスの病院に入院させ、十分な治療を受けさせることができなかった。

 高額な入院費を工面することができなかったんだ。

 母は闘病からわずか半年で生涯を終えた。父は自分の不甲斐なさを責め、母の遺体に縋り付き泣き崩れた。

 俺や妹よりも号泣していた父。
 母の遺体から離れようとしない父の姿が、今も俺の目に焼き付いて離れない。

 ――『医師になって、病気で苦しむ人を救いたい』

 十三歳の俺が、医師を目指した理由。

 王立イージス高校に進んだ俺は首席で卒業し、ルービリア大学の特待生になれたことは奇跡に等しい。

 父は息子の快挙に手放しで喜んでくれた。俺は王都ルービリアに移り住み、ルービリア大学の寄宿舎に入り、平日は勉学に励み、休日は生活費を稼ぐために家庭教師をしている。
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