奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 挙式の翌日、ピエールは家族や親族にプランティエの観光案内をするために、早朝より自宅を出てホテルに向かった。

 私は体調を理由に自宅に残った。

 今アダムに逢うと……
 自分の気持ちが揺らぐ気がして、ホテルに行くことが出来なかった。

 ピエールが出掛けて三十分後、玄関ドアをノックする音がした。

「ピエール?」

 ドアを開けたらジュリアが立っていた。

「ジュリア……どうしたの?ピエールはホテルに向かったはず。プランティエの観光に行かなかったの?」

「うん、親族とゾロゾロ観光だなんて、興味ないから。フローラ、大切な話があるの。入っていい?」

「そうね。私もジュリアと話がしたいと思っていたの。入って……」

 私はジュリアをリビングに通す。ジュリアとの間にまだ蟠りはあったが、これからは妹として、家族として付き合っていけたらと思っていた。

「ソファーに座って寛いで。ハーブティー入れるわね」

「ありがとう。ねぇフローラ、記憶が戻ったって本当?」

「……本当よ」

「全部思い出したの?私が……プランティエを訪れたことも?あの日のことも?」

「全部思い出したわ」

 ハーブティーをテーブルに置き、お腹を庇いながらソファーに腰を落とす。ジュリアは突然取り乱し涙を溢した。

「フローラ……ごめんなさい。あれは……全部嘘だったのよ。私はアダム君と付き合ってないし、あの夜アダム君とは何もなかった。アダム君は困っていた私を泊めてくれただけなの。それなのに、私は……フローラにあんな嘘をついた。
今だって、アダム君は友達として、情緒不安定な私の傍にいてくれるだけなの。アダム君は今でもフローラのことを愛してるわ」
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