奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ホームに発車のベルが鳴る。私は走り出す蒸気機関車を見つめながら、ホームに立ち尽くし涙を溢した。

 ――運命の歯車は狂ってしまったんだ。

 失われた時間は、取り戻す事は出来ない。

 アダム……。
 私達はもう前を向いて歩いて行くしかないんだね。

 引き返すことも、立ち止まることもできないんだね。

 あなたがそう決めたのなら……
 私ももう迷わない。

 ◇

 マンションに戻ると、ジュリアが部屋で待っていてくれた。ジュリアは私に駆け寄る。

「フローラ……アダムに逢えたの?どうして……戻ってきたのよ!一緒にマジェンタ王国に帰国すればよかったのに……。ピエールには私から話すわ!私がピエールに謝罪するから!」

「ジュリアありがとう……。もういいの。ちゃんとアダムと別れてきたから」

「……別れた?どーして!どーして!」

「もう遅いの……。もう……アダムと同じ道は歩めない」

 ジュリアはその場に蹲り、私に何度も詫びた。

「フローラ……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

「……もう謝らないで。私達が別々の道を歩むと……決めたの。だからね、ジュリアも自分の道を歩んで欲しいの。もう……自分の命を粗末にしないと、約束して欲しいの」

「……フローラ」

 号泣するジュリアと一緒に、私も声を上げて泣いた。

 ◇

 ――二日後、マジェンタ王国に帰国する両親や親族をプランティエ駅で見送る。

「フローラ、本当にもういいの?」

 ジュリアは何度も私に確認したが、私は首を左右に振る。

「もういいのよ」

 家族や親族に囲まれ、談笑しているピエール。気難しいと言われていたロンサール公爵の顔にも笑みが浮かぶ。

 私達の結婚で、父と子の蟠りも解消されたようだ。そして……私とジュリアの間にできていた溝も、これから時間をかけて修復していけるだろう。

 ――アダム……
 私はこの地で、ピエールと生きて行くよ。

 ――アダム……
 あなたが授けてくれた、かけがえのない子供と一緒に。
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