奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【16】生と死の淵で
 月日は流れ、私は妊娠二十四週(七ヶ月)になった。

 お腹は大きくなり、赤ちゃんは胎内で活発に動く。

 いつもの定期検診。
 私は医師から胎盤の位置が正常ではないとの説明を受けた。

「全前置胎盤ですね。出血に注意して下さい。場合によっては、出血多量になる恐れもあります。一度ご主人と一緒に受診して下さい。ご主人にもご説明します」

「全前置胎盤……」

 私は検診を終え、アパートに戻る。
 プランティエ大学から帰宅するピエールを、不安な気持ちで待っていた。

 夕方、帰宅したピエールは、いつものように私を抱き締め優しいキスを落とした。

「ただいま。検診はどうだった?赤ちゃん順調?」

「赤ちゃんは順調よ。ただ……全前置胎盤だって言われたの。出産に関してピエールにも説明したいから、一緒に来院して下さいって」

「全前置胎盤……。そうか、それは気をつけないといけないね。でも大丈夫だよ。俺が傍にいるから」

 医学生のピエールは、医学的な知識も豊富で、私の妊娠を期に熱心に産婦人科の勉強もしていて、医学書の内容が全て頭に入っていたと言っても過言ではない。

「フローラ、重い物を持ったり無理をしたら駄目だよ。少量の出血でもすぐに病院に電話をするんだよ」

 医学的な知識のない私には、その病気の重大さが理解出来ていなかった。

 ――翌週、私はピエールと二人で再びプランティエ大学附属病院に行く。医師とピエールは時折医学用語を交え、私の出産方法について話し合った。

「奥様やお子様のためにも、早期入院し胎児の成長を診ながら、自然分娩ではなく開産(帝王切開)にした方が一番安全ではないかと」

 開産……。
 私……自然分娩出来ないんだ。

 ピエールの真剣な表情に、私も事の重大さが徐々に理解できた。
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