奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【アダムside】

 マジェンタ王国に帰国し、すでにニヶ月が経過した。ルービリア大学での学生生活も充実し、もうすぐ病院での実習も始まる。

 看護科であるジュリアは、医学部よりも在籍年数は短い。

 俺は帰国しても、フローラのことを忘れた日はなかった。

 公爵家という裕福な家庭に育ったピエール。生まれながらに地位も財力も兼ね備えている。

 フローラは伯爵令嬢だ。ピエールと結婚した方が、俺と一緒にいるよりも幸せなのだと、何度も自分に言い聞かせた。

「ねぇ、アダム君。全前置胎盤って分かる?」

 ジュリアが俺に問い掛ける。

「ああ、一応医学生だからね」

 俺は笑って答えた。
 一般的な質問だと、安易に思っていたからだ。

「フローラね。それらしいの」

「……えっ?」

「それって、妊婦には大変なの?私、産婦人科のことはよくわからなくて……」

「いい状態とはいえないよ。子宮の入り口を胎盤が塞いでいるようなものだから。陣痛が起きたら危険だ。出血多量の恐れもあるし、胎盤早期剥離の危険もある」

「そんなに危険なの?フローラ大丈夫かな」

「フローラにはピエールがついてる。あいつも医学生だから、知識はあるはずだよ」

 ジュリアにそう言ったものの、内心は不安だった。

 大丈夫かな……。
 まだ二十四週くらいだよな。

 臨月まで後三ヶ月ある。
 でも全前置胎盤なら妊娠三十二週になったら、早期入院した方がいい。自然分娩は危険だ。

 俺はプランティエで暮らすフローラとお腹の子供が心配でしょうがない。

 俺は二人の傍にはいられない。
 でも……いつだって、二人のことを想っているから……。
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