奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 ――妊娠三十二週(九ヶ月)。
 来週の月曜日に、入院することが決まった。

「二ヶ月近く入院するんだよね。寂しいな。ピエール、一人で大丈夫?洗濯や食事の用意できるかな?メイドさん雇ってもいいよ」

「ばかだな。俺の心配なんてしなくていいから。俺一人なのにメイドなんていらないよ。毎日病院に逢いに行くからな。もうすぐ赤ちゃんに逢えるんだよ。ママが不安な顔してどうするの」

「そうだよね。ねぇピエール。赤ちゃんの名前はピエールが決めてね」

「俺?」

「うん」

「俺で……いいのか?」

 ピエールは驚きを隠せない。

「だって、ピエールがこの子のパパでしょう。ピエールに名前をつけて欲しいの」

 ピエールは顔をクシャッとほころばせ、嬉しそうに笑った。

「いい名前、考えるよ」

「うん」

「俺、大学に行くけど、留守中大丈夫だよね?無理したらダメだよ。何かあったらすぐにプランティエ大学附属病院に連絡して」

「わかってるよ。ピエールは心配性なんだから」

 クスリと笑った私を、ピエールは優しく包み込む。このぬくもりがあれば、何も恐くない。

 私は登校するピエールを見送り、部屋の掃除を始めた。

 来週から入院だ。暫くこの部屋ともお別れだね。床もモップで綺麗に拭こう。

 浴室の窓から外を眺めがら、バケツに水を張る。

 この青空は、マジェンタ王国にも続いているのかな。

 ――アダム……。
 元気ですか……。
 私はもうすぐママになるんだよ。

 バケツに少量の水を張り、両手で提げた。
 大した水量でなかったはずなのに、何の前触れもなく体内でプチッと鈍い音がした……。

 体からサーッと水が流れた。
 一瞬、その水が何なのか理解できなかった。

「……まさか、破水」

 自分の身に起きたことを理解したと同時に、全身から血の気が引き恐怖に青ざめた。
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