奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 勉学に励むために入学したのに、実際入学してみると、学生の殆どは爵位を持つ親の金や地位に胡座をかいて、勉強もせず適当に遊んでいる者もいる。

 こんなにいい加減で、本当に医師になれるのか?

 そんな俺の疑問にも、彼等は平然と答えた。

「留年しても平気だよ。親がいくらでも金を出すし、いざとなればどうにでもなる。本気で医師を目指している者は少ないからな。本来、働かなくても、俺達は金には不自由しないんだよ」

 お金に苦労しなくていい者達の言葉が、腹ただしくもあり、羨ましくもあった。

 ◇

 医学部は六年制。
 五年次には、病院での実習も始まる。

 俺は三年から四年次までの間に、一年~二年の隣国のプランティエ大学への留学を考えていた。

 ルービリア大学よりも設備の整ったプランティエ大学でも医学の技術を学びたい。そのために家庭教師も増やし、二年間コツコツと留学資金を貯めた。

 父はそんな俺に、母が残してくれた預金を差し出した。

 俺名義の預金。
 母が俺の将来のために、生活費を切りつめ細々と貯めてくれた預金だった。

 金額はそう多くはなかったが、母の気持ちが嬉しかった。

 ――翌日、ルービリア大学へ行くと、ピエールがニヤニヤしながら、俺の肩を叩いた。右手にはメモ用紙が握られ、目の前でヒラヒラと揺れている。

「ほら、ジュリアの自宅の電話番号ゲットしたよ」

「は?」

 そんなこと、頼んでないし。

「寄宿舎の電話番号は彼女に教えておいたから」

「何で勝手な事するんだよ」

 男子の寄宿舎に女子から電話があれば、すぐに噂になる。

「だって、そうでもしないと、二人とも進展しないだろ?ジュリアは看護科だから、俺達より早く卒業するし。チャンスはものにしないとな」
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