奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ◇◇

 【ピエールへ】

 この手紙は出産後に読んでね。

 ◇

 久しぶりに肖像画を描いてみました。
 ずっと描きたかったんだ。
 ピエールとまだ逢ったことのない赤ちゃん。

 赤ちゃんが成長したらこんな感じになるのかな?
 一人で想像しながら、描いたんだよ。笑わないでね。

 ピエールには内緒にしていたけど。
 赤ちゃんの性別は先生からコッソリ聞いて知っていました。

 私が想像する子供の容姿は、大きな目と愛らしい唇。
 きっと可愛い女の子だよ。

 ピエール、私はあなたに感謝してもしきれないくらい、たくさんの愛をもらいました。辛い妊娠期間も、不安定な気持ちも、あなたは全て優しく包み込んでくれた。

 あなたがいなければ、私は母親になることはできなかったでしょう。

 ピエール、こんな私を好きでいてくれてありがとう。

 あなたと家族になれてよかった。

 心より感謝しています。


 好きだよ。



        フローラより

 ◇◇

 俺はキャンバスの前に座り込む。
 手紙を手にしたまま、涙が止まらなかった。

 ――『心より感謝しています』
 フローラの言葉が胸に突き刺さる。

 こんな俺を?
 『好きだ』と言ってくれるのか?

 俺は卑怯な男なんだよ。
 フローラの記憶障害を利用し、俺は嘘をついた。

 フローラと結婚するために手段を選ばず、記憶を失ったフローラに卑劣な嘘をついたんだ。

 こんな俺を……
 フローラは許してくれるのか?
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