奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【18】深い眠りの中で
【アダムside】

 十一月になり、穏やかな秋の日が続いた。
 大学の構内、ジュリアが慌てて俺に駆け寄る。

「大変よ。アダム君」

「どうしたの?」

「フローラが大変なの。お父様が今朝マルティーヌ王国に出立されたの」

「何かあったの?」

「赤ちゃんを早産したのよ。胎盤早期剥離で、出血多量のショック状態で、フローラの意識が戻らないらしいの……」

「意識が戻らない?どうして?早期入院して開産したんじゃないのか?」

「マンションで突然産気付いて倒れたらしいの」

「まさか、命が危ないのか!?」

「一命はとりとめたみたい。でも意識が戻らなくて……」

「そんな……」

 俺は愕然とした。

「今……フローラは……?」

「まだ昏睡状態が続いてる……」

「赤ちゃんは?無事なのか?」

「赤ちゃんは女の子だったみたい。小さいけど元気だから心配いらないって」

「そうか……」

「アダム君はマルティーヌ王国に行かなくていいの?」

「俺が行っても、何も出来ないよ。ピエールの精神的な負担を増やすだけだ」

「……そんな」

「いいんだ。フローラにはピエールがついてる」

 本当は……
 すぐにプランティエに行きたかった。

 フローラの傍に……
 子供の傍に……
 すぐに行きたかったよ。

 でも……行けない。

 俺が行くことで……
 フローラやピエールをこれ以上苦しめたくはないから。
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