奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「フローラ……俺だよ。アダムだよ。フローラ、いつまで寝てるの?子供が産まれて一ヶ月経ったんだよ。
 フローラ……何やってんだよ。自分の赤ちゃんを抱いてないんだろう。
 フローラ……早く目を覚ませ……。頼む……起きてくれ……」

 フローラに話したいことはたくさんあったのに、あとは……声にならなかった。

 溢れる涙は頬を伝い、胸を締め付ける想いは、俺の言葉を奪う。

 ピエールも涙を溢した。

 あのピエールが……俺の傍で号泣している。

 フローラの手は動くことはなかったけれど温かかった。

「フローラ……生きるんだ。子供のためにも、強く生きるんだ……。フローラ……フローラ……」

 どうして……

 どうしてフローラがこんなことに……。

「アダム……。子供に逢ってくれないか。明日退院するんだ」

 俺はフローラの手を離し、ピエールと共に新生児室に向かった。

 新生児室の小さなベッドには、たくさんの赤ちゃんが寝ていた。

 ピエールはガラス越しに寝ている小さな赤ちゃんを指差した。

「この子だよ。フローラの子供だ」

 小さなベッドには名札が付けられていた。名札には『アリスター・ロンサール』と書かれていた。

「アリスターだよ。いい名前だろう。こいつさ、悔しいけど髪の色から瞳の色までお前にそっくりなんだよ」

 小さな赤ちゃんは元気よく手足を動かしていた。その瞳の色はグリーンではなくブラウン。髪の色は金色ではなく黒色……。

「……生まれてくれてありがとう」

 俺のせいで、この命を危険に曝した。

 その命を育んでくれたのは……
 ピエールとフローラなんだ。
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