奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「だからって……勝手に」

「彼女、入学した時からお前の事が気になってたみたいだよ。シャルルが言うから間違いない」

「なんだよそれ」

「シャルルは恋愛に関しては、妙にカンが鋭いからな。俺が浮気したら、すぐにバレてしまうんだ。恋愛センサーがビビビッと反応するみたい」

「浮気って、冗談言ってる場合かよ。シャルルの気持ちを弄ぶなんて、ドウゴール公爵に知れたら、たとえロンサール公爵の息子でもただじゃすまないよ」

 ピエールは笑いながら、俺にメモ用紙を渡す。育った環境も性格も俺とは正反対だけど、ピエールは俺にとって大切な親友だ。だからこそ、人の道に外れたことはして欲しくない。

 俺はジュリアの家の電話番号を書いたメモを渡され、仕方なくジャケットのポケットに押し込んだ。

 ピエールと校庭で別れ、俺は一人で学生課に向かった。

『プランティエ大学に交換留学生として行くなら、早い方がいいだろう。金の事なら心配するな。アダムはウィンチェスター家の誇りだ。お前のためなら田畑を売り払ってもいい』

 父は迷っていた俺の背中を押してくれた。

 九月から一年間、プランティエ大学へ留学するために、学生課に申請に行く。

 学生課の事務員は、眼鏡を掛けた三十代半ばの女性。

「サマーバケーションを利用しての留学ではなく、九月からの一年間ですね。希望の大学は?」

「マルティーヌ王国のプランティエ大学の交換留学生として申請します」

「わかりました。プランティエ大学と連絡を取ります。受け入れ可能ならば、手続きを早急にする必要がありますから。そのつもりでいて下さい」

「はい、宜しくお願いします」

 留学まで、後三ヶ月。
 そのための準備もあるし、女性と交際をする時間はなかった。
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