奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「アリスターを抱いてやって欲しい」

「……お、俺が?」

 ピエールは俺の目を真っ直ぐ見つめ深く頷いた。

 俺はピエールの数歩後ろを歩き、新生児室に入った。看護師がアリスターを抱いて俺達に歩み寄る。

「低体重児だったけど、こんなに大きくなりましたよ」

 小さな赤ちゃんが俺の腕の中にすっぽりと収まった。

 生後一ヶ月のアリスター。
 低体重児として生まれたが、順調に成長している。

 小さな体が、俺にはずっしりと重く感じられた。

 俺の顔を見つめるつぶらな二つの瞳。
 愛しさが胸に込み上げ、目頭が熱くなる。

「お前にそっくりだろ」

「そんなことわからないよ」

 ピエールは赤ちゃんの頰に触れ、優しく話しかける。

「アリスター、パパに抱っこしてもらえてよかったな」

 ピエールの言葉に俺は動揺し、思わず見上げた。

「ピエール……」

「お前はアリスターの実父にかわりはない。俺はアリスターの父親として、アリスターには小さい時から真実を教えるつもりだ。『お前の父親は二人いるんだよ』ってな」

「ピエール……、そんなことをしていいのか」

「いいんだ。俺はこの子の父親だから。アダム、俺……お前に見せたいものがあるんだ。俺のアパートに来てくれないか?」

「見せたいもの?」

「どうしても見て欲しい。フローラもそう望んでいるはずだ」

 人が変わったように、穏やかな顔で微笑むピエール。ピエールを変えたのは、この小さな天使……。

「わかった。アパートに寄らせてもらうよ」

 俺はピエールと一緒に、病院を出てアパートに向かった。
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