奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【19】虹の絵画
 ―ピエールのアパート―

 子供部屋にはベビー用品が揃えられていた。ベビーベッドにはピンクのベビー布団。側面にはぬいぐるみや玩具。

 赤ちゃんがいつ退院してもいいように、準備は整えられていた。

「ピエール、明日からどうするつもりなんだ?フローラやお前のご両親に相談したのか?」

「いや、俺、プランティエ大学を三ヶ月休学するんだ」

「休学……?医学部を三ヶ月も休学したらどうなるか……」

「わかってる。勉学や研修の遅れは取り戻せないかもしれないな。でも、今は勉学よりももっと大切なことがあるんだ。
 子育てだよ。フローラと約束したから。俺……ちゃんと育てるって、約束したから。父はベビーシッターを雇うようにと命令してきたけど、自分の手で育てたいから。だってそうだろう。命がけで生まれてきたのに、パパもママも傍にいないなんて……。そんな可哀想なこと俺にはできない」

「……ピエール」

「三ヶ月経つ頃にはフローラも目覚めるだろう。そうしたらベビーシッターを雇うよ。プランティエ大学にも復学する。俺、絶対医師になるから。子供を育てながら、医師免許を取得してみせる」

 ピエールはそう断言し、部屋の中央に置かれた絵画を俺に見せてくれた。

「見てくれよ。この画はフローラが出産前に描いたんだ。この子はまだ逢っていないアリスターだよ。アリスターの顔、お前に似てるだろう。俺、この画を見て思ったんだ。フローラは無意識のうちに、お前の顔をここに描いたんだって。
 アリスターが生まれた時、それが確信に変わった」

 ピエールにとって、その事実は親子関係を否定したものだが、ピエールは俺の前で気丈に笑って見せた。
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