奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「俺がお前に見せたかったのは、それじゃない。この画なんだ」

 ピエールは額縁に入った一枚の絵画を俺に差し出した。

「クローゼットの中に入ってたんだ。この画はフローラの心……。アダムに渡すつもりで描いた絵だと思う」

 その絵画は淡いパステルカラーで描かれた虹の絵画だった。その画を見て、ある光景が脳裏を過ぎる。

 ――フローラと結ばれたあの日……。
 アパートの窓から見た虹……。

「……これは」

「この虹によほどの想い出があったようだ。記憶をなくした時も、フローラの記憶の片隅に、この虹だけは残っていた」

 フローラが……
 あの虹を……。

 俺は窓際に立ち、その絵画を両手で掲げた。青空に浮かぶ一枚の絵画。それは美しくも儚い。

 ――フローラ……

 あの虹は……

 綺麗な虹だったよな。

 この絵画のように……

 淡いパステルカラー……

 幻想的な色が空を彩っていた……。

 ――フローラ……

 もう一度……

 あの虹を君と見たい……。

 ◇

 ピエールは俺の様子を見て、意を決したように口を開いた。

「アダムに頼みがあるんだ」

「頼み?」

「プランティエに来てくれないか?」

「プランティエに?」

「俺、都合のいいことを言ってるよな。軽蔑されてもいい。でも……アリスターが退院したら、きっと子育てにかかりきりになってしまう。今みたいにフローラの傍にいてやれないと思うんだ」

「……ピエール」

「お前にフローラの傍にいてやって欲しい」

「俺がフローラの傍に?ピエール、お前は本当にそれでいいのか?」
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