奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 父の思いに感謝しても仕切れない。
 不安な俺の背中を、父は押してくれたんだ。

 再び俺は、プランティエ大学に留学することになった。ピエール同様、このままプランティエ大学を卒業し、マルティーヌ王国で医師免許を取得するつもりだ。

 俺はプランティエ大学に通いながら、講義のない僅かな時間でも、フローラの病室で過ごした。

 ピエールはプランティエ大学を休学し、一人でアリスターを育てていた。

 ピエールの様子も気になり、俺は時々マンションに足を運ぶ。

 ピエールはフローラの白いエプロンをつけ、慣れた手つきでミルクを作り、アリスターを抱き上げ与える。

 あのプライド高きピエールが……
 アリスターのために、自分を犠牲にして子育てをしている。

 俺は心の中で、何度も『ありがとう』と呟いた。

 ◇

 あれから三ヶ月が経ち、生後四ヶ月になったアリスターは声をたてて笑うようになった。ミルクもよく飲み、低体重児だったとは思えないくらい丸々と太っていた。

 正直、ピエールがここまで出来るとは思わなかった。ミルクもオムツも入浴も完璧で、立派な父親になっていた。

「ピエール、休学してもう三ヶ月だよ。大学はどうするんだ?」

「復学するよ。お前には負けられないからな。ベビーシッターはもう頼んだ。来週から来てくれることになっている」

「どんな人?」

「太ったおばさん」

「お、おばさん?」

「若いベビーシッターだと、変な噂が立っても困るしな。《《だから》》五十過ぎのおばさん」

 ピエールは冗談まじりに笑った。俺達はこの三ヶ月で、冗談が言えるくらい元気を取り戻していた。

 アリスターの笑顔が、俺達に生じた亀裂を少しづつ埋めてくれたんだ。
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