奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ――季節は夏が過ぎ、秋になった……。

 ピエールは勉学の遅れを取り戻し、俺達は共に進級した。

 ルービリア大学で学んでいたジュリアは6月に卒業し、看護師の資格を取得し就職先も決まったらしい。

 その夜、ジュリアから久しぶりに電話が掛かってきた。

『アダム君、元気ですか?』

「ジュリア、久しぶりだね。看護師になったんだね。おめでとう」

『ありがとう。何科だと思う?』

「わからないよ。何科にしたの?」

『産婦人科よ。私ね、今まで死ぬことばかり考えていたから、生命の神秘に携わることで、自分自身を見つめ直したいと思ったの』

「そうか。頑張れよ」

『私が自傷行為を克服出来たのは、アダム君のお蔭だよ。今まで、何度も剃刀を手にしたけれど、傷だらけの手首を優しくさすってくれたアダム君を思い出し、踏みとどまれたの。
 私ね、アダム君に生きる勇気を貰ったんだよ。本当にありがとう……』

「俺じゃないよ。ジュリアが頑張ったんだよ」

 自傷行為を繰り返すことで、自分を追い詰めていたジュリア。そのジュリアが自分自身に打ち勝ち、看護師になった。

 それだけで……、感慨深いものがあった。

『アダム君、フローラはどう?』

「まだ眠ってるよ」

『そう……、アリスターは?』

「アリスターは元気だよ。ハイハイをして、目が離せないよ」

『ピエール君は元気にしてる?』

「ピエールも元気だよ。アリスターを育てながら、大学に通ってる」

『そう、みんな頑張ってるんだね』

「うん、頑張ってるよ。負けていられないからな」

『私達……いつかまた逢えるかな?」

「そうだね。みんなで逢えるといいな」

 俺は信じていたよ。

 俺達は決して諦めたりはしない。

 いつかきっと……
 奇跡は起こる。
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