奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 プランティエ大学附属病院での実習が始まった。多忙になり、フローラの病室に行く時間も減ってしまった。

 でも、実習を終えると、毎日欠かさずフローラの病室に通った。

 例え短時間でも、フローラに話しかけその手に触れ、顔色を見て健康状態を確認する。

 ピエールはベビーシッターを雇い、学業に全力を注ぎ、夜は子育てをした。

 ◇

 月日は流れ、アリスターは一歳になり、ヨチヨチ歩きをするようになった。

 フローラが眠り続けて一年。
 アリスターはカタコトのお喋りも始めた。

 俺のことを『パパ』と呼び、ピエールのことを『ダディ』と呼んだ。

 休日はアリスターを連れ三人で病室に行く。

 アリスターはフローラを見ると『ママ』と呼ぶようになった。

 一年半が経過し、アリスターは眠っているフローラに、『ママねんね?』と、聞くようになった。

 アリスターの成長で、月日が無情にも過ぎてしまったことに気付く。多忙な俺達を癒してくれるのは、日々成長していく天使の笑顔だった。

 ◇

 季節は再び秋になった。フローラの容態に変化がないまま俺達は進級し、年月は過ぎて行く。

 翌年、俺達は卒業の時を迎えた。ピエールは脳外科医、俺は内科医になり、勤務先はプランティエ大学附属病院に決まった。

 アリスターは二歳七ヶ月。

 フローラが眠り続けて、同様の時間が経過していた。
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