奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「フローラ……。綺麗な髪だね。いつもアリスターがブラシでとかしてくれるから。フローラ……もうすぐ四年だね。俺達、医師になったよ。アリスターはもうすぐ四歳だ。あのおチビちゃんが、もう幼稚舎に通ってるんだよ。信じられないよ」

 フローラは瞼を閉じたまま……
 静かに眠り続けている。

「フローラ……いつまで寝てるんだよ?早く目を覚ましてくれよ……フローラ……」

 両手でフローラの細くなった手を握る。
 あったかい手だ……。

 ――と、その時……。

 フローラの指先が微かに動き……
 俺の手を握り返した。

 えっ……
 嘘だろ?

 俺は動揺し、フローラの顔を見つめる。

 ――『神経の刺激による反射に過ぎない』

 担当医の言葉を思い出す。

「フローラ……?」

 フローラの手を強く握ると、微弱だが確かに俺の手を握り返している。

「おい、フローラ、聞こえてるのか?フローラ……俺だよ。アダムだ!フローラ……目を覚ませ!」

 フローラの手が……
 フローラの指が……
 俺の声に反応した……。

 フローラが俺の手を握り返している。

「フローラ……起きろ!フローラ……」

 閉じられた瞼から、一滴の涙が零れ落ちた。

 フローラは目覚めている……。
 俺の声が聞こえているんだ。

 フローラの反応は、刺激による単なる反射ではないと確信し、俺は慌ててナースコールを押す。

『どうしました?』

「早く!早く病室に来てくれ!フローラが俺の声に反応したんだ」

 担当医と看護師が慌てて病室に入り、照明を点けた。

「どうしたんですか、ウィンチェスター先生。容態が急変でも?」

「フローラが手を握り返してきたんです。涙を……流したんです」

「ロンサールさんが手を……?まさか?何かの外部刺激に反応しただけですよ」

「違う!見ていてくれ!フローラ、フローラ、聞こえるか?聞こえたら、手を握ってごらん」

 俺の声に返答するように、フローラの指先が微かに動き俺の手を握った。

「まさか……!?」

 担当医は目を見開き驚愕しながらも、フローラの耳元で話しかけた。
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