奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ロンサールさん?ロンサールさん?わかりますか?」

 フローラの瞼が微かに動いた。無表情だった顔が苦痛に歪んだ。

「フローラ……慌てなくていいから。ゆっくり……瞼を開けてごらん……。
 怖がらないで、俺がいるから。俺が傍にいるから……」

 フローラは苦しそうに眉をしかめる。

「照明を消して、眩しいから」

 担当医の言葉に、看護師は病室の電気を消した。

 ペンライトだけの、朧気な灯りの中……。

 フローラが……
 ゆっくりと瞼を開いた。

 その焦点は定らず、ただぼんやりと天井を見つめている。

「フローラ……俺だよ。アダムだよ」

 俺の言葉に、天井を見つめていたフローラがゆっくりと視線を移した。

「俺が……わかるか?」

 フローラは俺の言葉に、ゆっくりと瞼を閉じ瞬きをした。

「わかるんだね?」

 フローラの大きな瞳から、涙が溢れた。零れ落ちた涙は、白いシーツを濡らした。

 担当医がフローラにゆっくりと問い掛ける。

「ロンサールさん、わかりますか?わかったら、ゆっくり瞬きをして下さい」

 フローラがゆっくりと瞬きをする。

「あなたの名前はフローラ ロンサールさんですね。わかりますか?」

 フローラは再び瞬きをした。

 担当医はフローラを触診し、何度も問い掛けた。

「これは奇跡です。ロンサール先生とウィンチェスター先生の粘り強い看病が起こした奇跡ですよ。精密検査は明日行います。脈拍も心電図も血圧も正常範囲内です。ロンサールさん、今夜はゆっくり休んで下さいね」

 フローラはゆっくりと瞼を閉じた。

「……よかったですね。ウィンチェスター先生」

「……はい」

 担当医は俺の肩をポンと叩いた。
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