奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【22】夢の中で
 フローラが目覚めて二ヶ月。
 病室で迎えたアリスターの四歳の誕生日。アリスターの瞳もフローラの瞳もキラキラと輝いていた。

 途切れ途切れではあったが、言葉を少しずつ話せるようになった。

 ――それは、アリスターが起こした二つ目の奇跡だった。

 フローラと会話が出来るなんて、俺には夢のようだ。

 ◇

「夢……みて……た」

「夢?俺も、毎日が夢を見ているようだよ。フローラとこうして話が出来るなんて……。フローラ、よく頑張ったな」

「あの……ね……」

「うん」

「ずっ……と、きこえ……てた」

「何が?」

「むかし……むかし……」

「昔、昔?物語を読んでるの?」

「う……ん」

 俺の顔から笑みが漏れる。

「それ、アリスターだよ」

「アリ……スター……?」

「聞こえてたんだね。アリスターの声が……。アリスターは毎日フローラに絵本を読んで聞かせてたから」

「あの……子が……?」

「うん、むかし、むかし、むかし、って呪文みたいに。そればっかり繰り返してたよ」

 俺はクツクツと笑う。
 フローラは小さなアリスターが絵本を読み聞かせていたと知り、目を丸くした。

「絵本を……?」

「ああ、アリスターがフローラを目覚めさせたんだね。俺やピエールではなく、アリスターが……」

 フローラは黙って微笑んだ。

「フローラ、本格的にリハビリをしないか?アルフォンスドーテにいいリハビリセンターがあるんだ。アルフォンスドーテ総合病院とも隣接しているから安心してリハビリ出来る。俺はその病院に転勤したいと思っている。プランティエは寒暖差が激しいし、アリスターと三人でアルフォンスドーテに行かないか?」

「さん……にん?」

「俺、フローラが安心して生活出来るように、看護師の資格を持つメイドも雇うし、アリスターのために家庭教師も雇うつもりだよ」

「……ピエールは?」

「俺……ピエールから預かってる物があるんだ。どうするかは、フローラが決めてくれ」

 俺は四年前にピエールから渡されていた白い封筒をフローラに渡す。
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