奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「これは……な……に?」

「離婚届だよ。ピエールのサインはしてある」

 封筒の中から用紙を取り出し、フローラに見せた。フローラはその用紙の一点を見つめている。

 黙ったまま視線を俺に向けた。俺はフローラの目を真っ直ぐ見つめ頷いた。

「一緒にアルフォンスドーテへ行こう。フローラ、俺と結婚して欲しい」

 フローラの瞳から、涙が零れ落ちた。

「わたしは……あなたを……たくさん傷つけた。本当に……わたし……で……いいの?」

「俺も君をたくさん傷つけた。フローラしか……愛せない。君がどんな嘘をついたとしても、もうこの手を離したりはしない」

 俺はフローラを強く抱き締めた。フローラは俺の腕の中で号泣した。

 小さく震える体。
 聞こえるフローラの力強い鼓動。

 フローラがどんな体になろうと、俺には関係ない。

 生きている……。
 フローラが……こうして生きている……。

 それだけで、俺はいいんだ。

 ◇

 俺はアルフォンスドーテのリハビリセンターに、フローラの転院の手続きをとる。
 そして、プランティエ大学附属病院の教授に願い出て、アルフォンスドーテ総合病院への転勤希望も提出した。

 アルフォンスドーテに転院することは、事前にピエールに相談していた。

「アルフォンスドーテのリハビリセンターは、アルフォンスドーテ総合病院と提携してるから、患者にとって最適だよ。プランティエとは異なり一年中温暖な気候だし、フローラがリハビリをするには申し分ない環境だ。アダム、アリスターも連れて行くんだよな」

「ああ、そうしたい。フローラにはアリスターが必要なんだ。ピエール、連れて行ってもいいか?」

「いいも悪いも……、アリスターはアダムの子供だからな。子供は実の両親の元で育つのが一番だよ」
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