奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「今までアリスターを育ててくれて、本当にありがとう。お前は、アリスターの立派な父親だよ」

「当たり前だ。俺は一生、アリスターの父親のつもりだよ。いつ、アルフォンスドーテに行くんだ」

「来月行くつもりだよ。リハビリセンターの近くに家も借りた。看護師の資格を持つメイドも家庭教師も雇った」

「そうか、それなら万全だな」

「アリスターに話をしないと……」

「アリスターを納得させることが、一番難しいだろうな。俺がアリスターに話すよ。フローラの病室で俺が話す。お前も同席してくれ。明日、病室に連れて行くから」

 四歳になったばかりのアリスター。
 小さなアリスターが、ピエールとの別れをどう受け止めるのか、俺は心配だった。

 ――翌日、ピエールはアリスターを連れて病室に来た。俺は勤務を終え同席する。

「ママー!逢いたかったよ」

 ベッドに上り、フローラに抱き着くアリスター。無邪気で愛らしい。

「アリスター、ママにお話聞かせてあげて」

「おはなし?いーよ。むかし、むかし、むかし、むかし……」

 フローラが俺を見て笑った。

「そう……こ……れ」

「アダムもフローラも、何のことだよ?」

 ピエールが首を傾げながら、俺達を見つめた。

「フローラを目覚めさせた魔法の言葉だよ」

「魔法の言葉?」

「昏睡状態だったフローラが聞いた魔法の言葉」

「そうか……。聞こえていたのか……。フローラを目覚めさせたのは、アリスターだったんだね」

 俺達は顔を見合せ爆笑する。アリスターは大きな目をキョトンとさせ、俺達を見つめた。

「パパ?ダディ?なぁに?」

「アリスターがママを起こしたんだよ。アリスター、偉いぞ」

 ピエールはアリスターの頭をガシガシと撫でる。

「アリスターは偉い?」

 アリスターは得意げに、鼻先をツンと突きだしニッコリと笑った。
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