奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ジュリア……?
 ピエールの友達……?

 あー……、あの子か……。

 林檎みたいに真っ赤になって俯いた、彼女の顔が脳裏に浮かんだ。

 彼女の話を聞きながら、俺は戸惑いを隠せない。

 あのおとなしい子が、寄宿舎に電話してくるなんて、すごく勇気がいったんだろうな。

 そう思ったら、すぐに電話を切ることも出来ず、俺は彼女の話に相槌を打ちながら、管理人の顔色を伺っていた。

『あの……、私と交換日記をしてくれませんか?寄宿舎に何度も電話をするのは、アダム君に迷惑だと思うし……』

「えっ……交換日記?俺、手紙や日記書くの苦手だから……。大体何を書いたらいいのかわからないし」

『堅苦しく考えなくていいんです。その日にあったこととか……。私、アダム君のことをもっと知りたいから……』

 彼女の唐突な申し出に驚いている。
 交際もしていないのに、いきなり交換日記だなんて。気恥ずかしくて書けないよ。

『どうか、お願いします』

 彼女の必死な様子が伝わり、申し訳なく思う。

「俺、九月から交換留学するんだ。少しの間だけど、それでも……よければ」

『はい!よかった……。凄くドキドキしながら電話したんです。アダム君、交換留学するんですか?どこの大学ですか?』

「隣国のマルティーヌ王国だよ。プランティエ大学に一年。もしかしたら留学期間は延長するかもしれない」

『そうですか……。寂しくなりますね。でもそれまでの間でいいので、友達でいいので仲良くして下さい』

「友達でよければ、こちらこそ宜しくね」

 その日を境に、ジュリアとの交換日記が始まった。大学構内でもピエールやシャルルと一緒に、四人でランチしたり校庭で話すことも多くなった。

 専攻している学科は異なるけれど、年齢は同じだ。交換日記で互いの自己紹介をし、境遇を綴る。

 ジュリアが看護師を目指しているには理由があった。十歳で父を亡くしたからだ。

 俺も母を亡くしているため、親近感を抱いた。飾らない素朴な性格も一緒にいて気持ちが安らいだ。
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